第九話 新しい使用人
声をかけてきた少女たちは、キィ、とクゥ、と名乗った。
ありがとうございました、と2人は頭をさげる。
ウサギの耳が頭の上に揺れていたので、ウサギの獣人なんだろうなぁ。
身寄りもなく、なんとか住み込みで働く場所を見つけたところ、この火事なんだと。
そうか、ここお店だったんだ。
トカチ曰く、小さな食堂だったらしい。
火事の原因はまだわかっていないけれど、自分が疑われるのではないか、と2人はぷるぷる震えていた。
「大丈夫、あんたたちのせいじゃないってことくらいわかっているよぉ」
2人から現状を聞いていると、そう声をかけてきたおばあちゃんがいた。
トカチが、ここの店主だと教えてくれる。
「きっと、お日様の当たりどころが悪かったんだよぉ」
なにそれ。
トカチが、たまに起きる自然発火のことをそういうのだと教えてくれた。
なんかさっきからトカチに教えてもらいまくりだな。
「でも、ごめんねぇ。こうなっちまったらぁ、もう、あんたたちを雇ってあげられねないのよぉ。私も息子に連絡してしばらく世話になることになるのよぉ」
心底申し訳なさそうに頭をさげるおばあちゃんに、ウサギ少女たちは慌てて首を振る。
「いいえいいえ、マルチダさんのせいじゃないですっ謝らないでくださいっっ」
「でも、あんたらこれからどうするのよぉ」
眉を下げたおばあちゃんーマルチダさんというらしい?に対して、答えがないらしい2人はこまった顔で首を傾げた。
「あのう。僕の家で良ければ来ます?」
部屋は余ってる。
手を出したのだし、このまま放っておくのは僕の人助けの美学に反する。かっこわるい。
「え、ええ?でも…」
「ああ、そうだ、お兄さん、火を消してくれて、ありがとうねぇ。お礼遅くなってごめんねぇ」
「いえいえ」
マルチダさんは僕の手を握りつつ頭を下げて、そして援護してくれた。
「キィちゃん、クゥちゃん、そうさせてもらいなよぉ。このお兄さん、英雄様なんだろう?なら、きっと良くしてくれるはずだよぉ」
「英雄、なんて大そうな存在ではないんですけどね。でも、ほんと良かったら、仕事とお家見つかるまで僕の家に泊まればいいですよ。あ、大丈夫。僕は紳士です」
わざとらしく胸を張って見せると、キィさんもクゥさんも困ったように胸の前
手を振った。
「いいじゃねぇか!じゃ、早速いくか!」
「え、トカチもついてくるの?」
「え、ダメなのか?!」
「ううん、お店はいいのかな、と」
「今日は定休日なんだよ」
「なるほど。じゃあ、行きましょうか」
僕たちの会話ののち、さあ、と促す。
キィさんとクゥさんは、また困ったように首を傾げながら、それでもついて来てくれた。
***
帰宅してから、モーダさんとティティさんに事情を説明すると、それならうちで雇えばいいですよ、と言われた。
それなりに広いこの屋敷は、2人だけでもなんとかなるものの、人手が多いには越したことがないという。
「キィさんとクゥさんが良いなら、僕はそれでも良いですが」
「む、むしろ良いんですか…?私たち、まだ何ができるかとか、全然説明していないですし…その、私もクゥも、正直そこまで要領がいいわけでもない、ですし…」
「良いんじゃないですか?モーダさんとティティさんが良いって言ってるし」
「でも…」
尚も自分たちが役に立てるかわからないと不安がる2人。
「良いんですよ。こういうのは、出会いもんです。展開が急すぎて不安になるのはわかります。けど、とりあえず今はラッキーくらいに考えて、気楽に構えてください」
「え、ええと…、ありがとうございます」
「お、お世話になります」
よし。押し切った。
ちなみに、2人の顔はよく似ている。
薄桃色のふわふわした髪をしているほうがキィさん。クリーム色のストレートのボブがクゥさん。顔は似ていても、この2人に血縁関係はなく、同じ村の出身、という繋がりだけらしい。
ウサギの獣人は、わりと顔が似たり寄ったりになるんだそうだ。
謎でしかないけれど。
しかし、勝手に使用人ふやしちゃったし、これは本当に自分で稼ぐ必要性が出てきたな。
魔王様におんぶにだっこはだめ、ぜったい。
早急になんとかしよう。
「さて、じゃあお茶でもしましょうか」
とお茶会を始めたあたりで、トカチが僕に尋ねた。
「ところでおまえの能力ってなんなんだ?」
読んでくださってありがとうございます!
ブックマークもとてもうれしいです。ありがとうございます!
投稿頻度がまちまちな上、話の進み方がのんびりで申し訳ないです;
実生活の合間合間に書いているので、のんびりおつきあいいただけでば幸いです。