第六話 雑貨屋とらねこ①
「にしても、英雄様がこんな子どもとは思わなかったぜ」
トカチは、いきなりつっかかった詫びだと、近くにあった喫茶店に連れて行ってくれた。
肉体労働ガテン系かと思っていたけれど、トカチ、パティシエらしい。
ここには俺のスイーツ卸してるから、間違いないぜ、なんて言われたときには、似合わない響きすぎてちょっと笑ってしまい、ドンさんに『失礼ですわよ』叱られた。
「あー、よく勘違いされるんだけど、僕これでも29なんだよね」
「はっ!?嘘だろ!?」
「ほんとほんと。元の世界でも童顔だなんだって言われてたけど、こっちの人たちって魔族も人間もみんな老け顔だよねぇ」
そして、日本人の中でもちょっと背が低かった(僕の身長165センチ)こともあり、平均身長おそらく180センチ前後、のこの世界だと、しょっちゅう子どもに間違えられる。
トカチも目測190くらいはある気がする。
「っはー、人間でもエルフみたいなのがいるんだな」
「それは言い過ぎでしょ」
思わず笑ってしまう。
2人でケラケラ笑っていると、可愛らしい店員さん(獣人かな、もふもふも耳としっぽがついた男の子)がケーキとコーヒーを運んできてくれた。
トカチおすすめの、トカチケーキは、なるほど抜群に美味しかった。
「そういや、タテヤマはなんで城下町にきたんだ?買いものか?」
ドンさんと、モーダさん、ティティさん用に持ち帰りケーキを買って(伝言鳩という近場なら音声メッセージを届けられるサービスでモーダさん達にその旨伝えて)僕たちは街をぶらぶら歩く。
「あ、そうそう。人の国でお世話になっていた人に手紙を書きたくて。文房具とか買える店知らない?」
「それなら、この先の“とらねこ”がいいんじゃないか?」
「とらねこ?」
「おう。雑貨屋とらねこ。一般的な文房具から、包装紙、ちょっとした魔道具なんかも置いてる、ここらじゃ1番でかい雑貨屋だよ」
「おお、それは楽しそう。コロさん、ドンさん、いいかな?」
『あるじといっしょなら、どこでもいいよー!』
『コロさんに同意です』
2人の同意もとって、トカチ案内のもと僕たちは“雑貨屋とらねこ“に向かった。
***
「いらっしゃいませー!おうん?人間?」
雑貨屋とらねこは、その名の通り虎柄猫の飾りがついた看板を掲げていた。
扉をあけるとすぐにカウンターがあり、左右に商品の棚や机が広がっている。
綺麗に整頓された、可愛らしい店だ。
正面のカウンターに座っていたのは、虎もようの猫耳と尻尾をゆらゆら揺らしている、美青年だった。
「おい、トカチ。人間連れてくるって、どうしたよ」
「聞いておどろくななよ。この人間、あの英雄タテヤマなんだよ」
「えええ!?嘘だろ」
「まじまじ」
トカチとこの美青年は仲がいいらしい。
じーっとこっちを見られたので、会釈すると、美青年がうおー!と声をあげた。
「まじかよー!ちょっ、俺ファンでさあ!握手してくださいよ握手!!」
とカウンターをひらっと乗り越えて迫ってきたので、思わず避ける。
なかなかの勢いだったのでそのまま体勢を崩すかと思ったのに、美青年はあちゃーっと言いながら体勢を立て直し、改めて僕に向き直った。
「あっはっは。すんません。俺はチェチェです。初めまして、英雄様。獣魔のお二方も」
美青年の満面スマイル。やばい、なんだかキラキラしてる。
しかも、コロさんとドンさんにもきちんと挨拶をするなんて、この人…できる…!
コロさんは小さくて尻尾を振り、ドンさんはほんの少し会釈をした。
「初めまして。館山貞義です」
僕がそう右手を差し出すと、パァと顔をもう一段キラキラさせてぎゅっと手を握った。
なんか良い匂いする。美青年ってすごい。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
僕とチェチェさんが硬い握手を交わしていると、カウンターの後ろの扉があいて、チェチェさんそっくりな美少女が顔をだした。
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