第四話 そうだ手紙を書こう
次の日の朝、ふかふかのベッドから体を起こすと、床に敷いてあるやわらかそうな毛布のうえでお腹をまるだしで寝ているコロさんがいた。ふごふご寝言を言っている。可愛い。超可愛い。
ドンさんは美しい。コロさんは可愛い。
つまり、どちらも大正義。
そんなことを考えていると、ふごっと一際おおきな寝言とともにびくっとコロさんが体を震わせて、飛び起きた。
「おはよう、コロさん」
『あっあれっあれっ?ここどこ!?あるじ!?』
「寝ぼけているのも可愛いけど、落ち着いてコロさん」
もふん、とコロさんのお腹にだいぶする。
1日いちモフはいる。確実にいる。
100モフでもいい。
『え?あ、そっかぁ。魔の国で暮らすことになったんだったねー!』
そういうと、コロさんはぐーっとノビをした。
コンコン、とノックの音がして、モーダさんの声が聞こえた。
「タテヤマ様、起きてらっしゃいますか?」
「はい、起きてます」
「おはようございます。朝食はいかがいたしましょう?」
初見はピリっとして見えたのだけど、モーダさんは基本的に柔和な笑顔を浮かべている。なんというか、「おじいちゃん!」と呼びたい素敵な雰囲気。
聞いたところ、僕からみると年齢的にはおじいちゃんと呼んでも構わない年齢らしいし実際孫もいるそうだが、そうなると、モーダさんより年上で、けれど少女にしか見えないティティさんも「おばあちゃん」になるわけで、それはちょっと…という理由からおじいちゃんと呼んではいない。
「お願いしてもいいですか?」
「かしこまりました。昨日はお伺いしそびれてしまって申し訳ありません。苦手なものなどは…」
「特にないです!」
「承知いたしました」
モーダさんが一礼して下がってから、僕はささっと着替えてコロさんと、山へ向かった。
ドンさんに会うためだ。
ドンさんも部屋に来ればいいと言ったのだけど、ドンさんは『まずは山に湧いている魔力に体を慣らしたいですの』といって、そのまま山に残ったのだ。
「ドンさん、おはよう!」
『おはようございます、主さま』
朝日を浴びると、ドンさんの鱗の美しさはさらに際立つ。
はぁ、と思わず見惚れていると、ドンさんが照れたように笑った。
『そんなに見つめられると照れてしまいますわ。主さま』
「ああごめん、つい」
『うふふ』
そういえば。
「ドンさんは、ご飯とかってどんな感じ?コロさんはお肉とか準備してもらうって言っていたけど」
『私は魔力が満ちている場所なら食事は特に必要ないですわ。まあ、主さま、お忘れになって?』
「ええ!?いや、忘れてない、忘れてないよ!?」
ドンさんは冗談ですわ、と笑う。
『お昼はご一緒させてくださいな。久しぶりに甘いものが食べたいです』
ドンさんは生き物ではあるけれど、どちらかというと精霊に近いらしい。
なので、嗜好品として食べることはあっても、生命活動のための食事は必要ない。
「了解!モーダさんたちに伝えておくね」
そう約束をして僕とコロさんは屋敷にもどった。
***
朝食を終えて、昼食時には甘いものもお願いしたいと伝えて、さて、何をしようか、とコロさんと一緒に庭に転がる。
コロさんのお腹を枕にさせてもらいつつ、空を眺める。
もう慣れたけど、空に浮かぶ二つの太陽は、一つが赤く一つが青い。
不思議だなぁ、と思うし、太陽を見るたびに異世界であることを突きつけられる気がして、最初の頃は空を見るのが嫌だった。
うーん、ここのところ色々思い出すなあ。
召喚されてから、特別酷い扱いを受けたわけではないけれど、やっぱりそれなりに辛いこともあったわけで。
それはあまり思い出して気持ちの良い物ではない。
「そういえば、ハヤテじぃ様や、アヤばぁ様は元気してるのかな」
『だれにもバイバイできなかったもんねぇ。あるじ」
「そうなんだよね。でもきっと人質って名目でこっちに来てるのは知ってるよね。心配かけてないといいけど…。あっそうだ、手紙書こうか。ハヤブサ便なら国関係なく持っていってくれるもんね」
ハヤテじぃ様、アヤばぁ様は、僕がこっちに召喚されて力を持て余しているときに指導してくれた師匠だ。
1番辛かったときに、僕の心を支えてくれたという意味でも大恩人なのだけど、そんな2人に挨拶のひとつもせずに魔の国に来てしまったことは、ちょっとひっかかっていた。
ハヤブサ便という特殊な郵便屋さんは、世界中へ最速で手紙を届けてくれる。ちょっとお高いのだけど。
「そうと決まれば街に買いものにいかないと…、いや、その前に先立つものを準備する方が先かな」
『ねぇあるじ、じゃあさーとりあえず街にいってみよーよ。ドンさんも小さくなってもらえば肩に乗れるでしょー?ボク、みんなでおでかけ、したいなぁ』
「うっ、そんな目で僕をみないでコロさん、よし行こう」
即決して、僕はドンさんに声をかけて、3人(?)で街に出かけることにした。
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