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殺さず勇者 人畜無害のタテヤマくん  作者: ゆるゆる堂


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最終話 殺さず勇者 人畜無害のタテヤマくん

 僕らが恐らくこの世界で初めての「治癒」の魔法を使ってから、1週間。

 朝早くに、ミクさんが僕の借りている部屋に飛び込んできた。

「ハヤテ様と、アヤ様が!!」

 その言葉を聞いた瞬間、僕はベッドから飛び降りて、じぃ様たちの部屋に走った。

 どっち?

 どっちの知らせだ?

 ちゃんと聞いてから部屋を出るべきだった、なんてどこかで思いながら、ほぼ全速力で病室へ走り、すでに開いていた扉に飛び込む。

 そこには、体を起こして、ベッドに座っている、ハヤテじぃ様と、アヤばぁ様がいて。

「ぅ、あ」

 言葉が出てこない。

 僕の頬を、ぼろぼろと涙が濡らす。

「あ、うあ…」

 成功した。

 綱渡りを、生のほうに渡り切ってくれた。

 視界が滲んで、じぃ様とばぁ様がどんな顔をしているかわからない。

 でも、その涙を拭う余裕なんて、僕にはなかった。

「廊下を走るな、ばかもんが」

 呆れたようにそうじぃ様がいった瞬間、僕の涙は、洪水に変わった。

 子どもみたいに声をあげて泣いて、泣いて、周りからもすすり泣く声が聞こえてきていた。

 きっと、困ったようにばぁ様は笑っているんだろう。

 きっと、死ぬはずなんてないだろうが、とじぃ様は眉を顰めているんだろう。

 ああ、よかった。

 本当に、よかった。

 しばらく泣いてから、僕はずずっと鼻を啜って、言った。

「おかえりなさい、ハヤテじぃ様、アヤばぁ様」



***


 じぃ様とばぁ様が起きたことで、魔力の支配を維持しにくくなったこともあり、何かあったらまたすぐに魔法を使えるような万全の体制をとってから、トウマさんと僕は死化粧(対象が死んでないから今回のこの魔法は別の名前をつけよう、と言いながら決まらなかった)を解除した。

 しかし、傷を塞いで、上級ポーションを使ったのがよかったようで、二人の傷は魔法を解いても開くことはなく、そこから1週間ほど経つ頃には、完全に塞がったようだった。

「にしても、死化粧を生きてる人間に使うなんて、よく思いついたわね」

 だいぶ元気になったばぁ様と、病室でお茶をしていたら、ばぁ様がそう言って笑った。

「必死だったもん」

 と僕が言うと、ありがとうねぇ、と頭を撫でられて、どうにもむず痒い気持ちになった。

 基礎体力がばぁ様より高いじぃ様はすでにリハビリにうつっているらしく、本当に老人なのかあの人は、と思わなくもない。

「じぃ様とばぁ様はこれからどうするの?」

「そうねぇ。もう人の国に戻るのは難しいし、正直もどりたくもないしねぇ」

 ばぁ様が頬に手を添えながらそんなことをいうので、僕はつい、まだ全く煮詰めてない考えをぽろりとこぼしてしまった。

「僕、国境あたりに住もうと思ってるんだよね。じぃ様たちも、くる?」

「あら、どういうこと?」

「んー…、まだ詳しく決めてないんだけど、僕、人と魔、どちらにも属さない第3勢力になっちゃおうかと思ってるんだよね。戦争したいなら俺を超えていけ!みたいな。魔王様のほうには許可は貰ってる」

 僕の言葉にぽかん、とくちをあけるばぁ様。

「コロさんとドンさんも来てもらって、屋敷建ててさ。今回、ばぁ様たちが寝てる間に新しい勇者をぼっこぼこにしちゃったし、僕はいい感じに人の国の的になってるはずだから、もちろん殺さずは貫くつもりだけど、盾になろうかと」

「サダちゃん。それは、貴方が担うような役割じゃないのよ?」

「うん、そうかも。でも、僕さ、…人の国にも、魔の国にも、死んでほしくない人ができたから。だから、これは責任感とか義務感とかじゃなくて、僕のわがまま。力をもらって良い気になった、僕のわがままなんだ、ばぁ様」

 ある程度僕の実力を示せたら、あとはのんびりスローライフだってできるはず。

 そう、とばぁ様は言ってから、

「ハヤテさんと相談するけれど、そうね、お邪魔しちゃおうかしら」

 と笑ってくれた。



***


それから、どうなったのかというと。


 僕は宣言通り、国境付近に屋敷を構えた。

 人の王に許可とか取りたくなかったから、ぎりぎり屋敷の全体が魔の国に入っているくらいの位置。

 そして、人の国に宣言を出す。

 まあ、すごく簡単にまとめると、ばぁ様に行ったみたいな「戦争するなら俺を超えていくんだな、はっはっは!」みたいな感じ。

 当然、人の王は怒って僕を裏切り者として討伐しようとしたらしいんだけど、じぃ様とばぁ様を処刑したこと(実際は死んでなかったけれど、国に残った人たちはみなもう生きていないと思っている)で、不満が爆発した騎士団や薬師たちが盛大なストライキを起こし、戦争どころじゃなくなったそうだ。

 ということで、僕は戦うこともなく、のんびりスローライフを行えるようになった。

 コロさんやドンさんがいてくれるから、魔の国の城下町へ買い物いくのも問題ないし、雑貨屋とらねこを筆頭に、僕のつくるポーションやアクセサリーは引き続き買い取ってもらえている。

 そして、なぜか、モーダさん、ティティさんはこっちの屋敷についてきてくれた。

 悪いです、と最初は断ったのだけど、「私たちの我儘をどうか聞いていただけませんか?」と言われてしまい、断りきれなくなってしまったのだ。

 お給与は、魔王様が国境の守り手として二人に出してくれているらしい。

 何から何まで申し訳ないが、僕の稼ぎで今までのようなお給与を出すことは不可能なので、そこは魔王様に甘えることにした。

 何かあれば、僕も国境の守り手(笑)みたいな働きをしようと、こっそり思っている。

 キィさんは、城下町のパン屋さんで働くことになり、クゥさんは、トカチと結婚して家庭に入っている。

 トカチは、今までみたいに手土産持って気軽に、とは言えない距離になってしまった分、僕らが街へ買い物に行くと、ほぼ絶対現れて、トカチケーキを差し入れてくれるようになった。

 じぃ様とばぁ様は、少し悩んだみたいだけど、この屋敷に来てくれた。

 久しぶりにじぃ様に手合わせしてもらったり、ばぁ様から薬草の話をしてもらったり。

 祖父母と孫、みたいな良い関係で過ごせているんじゃないかと、…僕は、思っている。


そして


『主様』

『あるじー!』

 僕にとって、1番大事な二人は、今日も僕のそばで笑ってくれている。

 コロさんは激かわもっふもふだし、ドンさんは相変わらず竜でも人型でも絶世の美女だ。

 僕がこの世界にきて、帰ることが叶わないとわかったあの日から、随分色々あった。

 けれど、なんだかかんだ、僕は僕らしくいられる、生きられるところに収まったと思っている。

「おーいっ!」

 僕は二人に向かって手を振って、そして走り寄る。


 不殺を決めて、貫いて、本当に良かった。

 ぎゅう、と抱きしめた二人の温もりを感じながら、僕、「殺さず勇者のタテヤマ」はそんな風に思ったのだった。


これにて完結です…!!

ここまでお付き合いくださいました皆々様、本当に、本当にありがとうございました…!!!


途中なんども長期間書かなかったりして、不誠実なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。

けれど、それでもなんとか最後まで書き切ることができましたのは、ブックマークやPVが0にならなかったからでございます。

本当に、本当にありがとうございました。

また、次の連載をするときは、どうぞ、覗いていただけると幸いです。


ありがとうございました!!

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