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第29話 世界初の治療魔法

 当日朝、僕はまず、魔力を細く細く針のようにして、まずじぃ様とばぁ様の中に注ぐ。

 渡した魔力がじぃ様とばぁ様の体に馴染んで広がって、温める、そんなイメージで。

 一気に行かないように、ゆっくり、ゆっくり。

 工房をこんな緻密な作業として使ったことがなかった僕は、身体中から汗が吹き出してるのを感じた。

 医療ドラマとかで、手術するお医者さんが汗だくになってるイメージあるけど、もしかしてこういう感覚なのかな。知らないけど。

 集中するということは、全身運動なのかもしれない。

 ぽた、ぽた、と額から汗が落ちていく。

 どれくらいの時間そうしていたのかわからない。

『主様』

 ドンさんに声をかけられ、顔をあげる。

 じぃ様と、ばぁ様の頬に、すこし、ほんの少しだけど、赤みがさしていた。

「…成功…した…?」

 ものすごく喉が渇いてて、声が掠れるが、ドンさんが頷いたことでほ、と息を吐いた。

 まずは、一つ目の階段クリアだ。

 次のステップの準備に、と立ちあがろうとしたけれど、足に力が入らない。

 魔力切れ、とかではないが、それだけ気力を奪われる魔法だったということだろう。

「手を貸してくれる、ドンさん」

 人型になっているドンさんの肩を借りたいとそう声をかけると、『もちろんですわ』という笑顔のあと、ひょい、と抱き上げられた。

「え…?」

 そう、僕今、姫抱っこされてます。

 絶世の美女に、姫抱っこされる、三十路男子。

 ドンさんが好意で、全く他意なく僕の体を慮ってしてくれてるのわかるから、何も言えなくて、僕はそっと顔を手で覆った。


***


 次は、僕の回復を待って、少し戻ったじぃ様とばぁ様の魔力を、僕の支配下に置く魔法を作る。

 支配下に置くというのは自分の魔力で相手の魔力を覆うみたいなイメージだったんだけど、トウマさんがいうに、覆うのではなく、紐をつける、というイメージらしい。

 今回は死んだ人の魔力ではなく、生きている人間の魔力だから、抵抗が強いかもしれないとトウマさんはいうが、そこは工房の力を信じて”紐をつけて支配下における“という強いイメージを持つ。

 そして、横にいるトウマさんのそばに、“死んだ人”の魔力と同じような条件で置く、というのが次の魔法。

 そこからは、トウマさんの出番だ。

「トウマさん、準備はいいですか」

「いつでもどうぞ」

 トウマさんの腕と僕の腕には、僕の魔力をタンクとするための装置がついている。

「では、行きます」

 僕は、魔法を発動する。

 まずはじぃ様から魔力をすこし奪い、その魔力を僕の魔力と紐付ける。

 ぴりぴりとした抵抗は感じたけれど、いまじぃ様の中に入っている魔力は僕の魔力を分けたものだからか、考えていたよりずっと抵抗が少なかった。

 紐付けた魔力を、“意識、無意識のない魔力”に変換し、じぃ様のまわりに浮かせた。

 これも、魔力操作が緻密すぎて吐きそうになるが、奥歯を噛んで耐えた。

 隣で、「すごい」とトウマさんが呟いて、そして、トウマさんも魔法を発動する。

 一瞬、エレベーターが下がった時のような浮遊感を感じたけど、これが魔力を奪われるという感覚なんだろうか。

 とりあえず、じぃ様の処置が終わるまでは、僕は魔力タンクに徹することにする。

 30分ほどだろうか。

「おわりました」というトウマさんの声で、じぃ様の処置が終了したことを知る。

 大きく赤い縦線が入ってたじぃ様のお腹は、傷なんてあったのか、というレベルに、綺麗になっていた。

 これで、まだ治っていないなんて信じられないほどに。

 汗だくになっているトウマさんは、感覚を忘れないように、このままばぁ様の処置に移ろう、と言う。

 僕も頷いて、じぃ様の時と全く同じ魔法を発動し、そして、ばぁ様のお腹の傷も、びっくりするほど綺麗になった。

 初めて作った魔法が、ちゃんと作用したことに、僕らはみんなほっとして、その場にへたりこむ。

「ここからは上級ポーションが傷の治りをフォローしますが、傷が塞がるまで、少なくとも半月ほどは魔力を貸していただけませんか」

へたり込むどころか床に転がったトウマさんがそう言うので、思わず、

「半月も魔法使いっぱなしって、神経擦り切れませんか?」

 僕がそういうと、トウマさんは笑った。

「魔力切れがないなら、そうでもないですよ」



 さて、半月はここにとどまる、と決まったからには、その旨を屋敷や魔王様に伝えないと。そう考えた僕は、ミクさんに頼んでハヤブサ便を読んでもらって手紙を書き、魔の国へ送った。

 さあ、僕にできることは、多分全部した。

 あとは、じぃ様とばぁ様を信じるしかできない。

 読んでくださってありがとうございます!!

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