第26話 治癒について教えてもらう
トウマさんはしばらく固まってから、魔力を支配下に置く、たしかにそれなら…とぶつぶつ1人の世界に入ってしまった。
うーん、どうしたものか、と思っていると、シズクさんが5、6冊の書物や書類を抱えて戻ってきた。
「ええと、タテヤマ様がどの程度の知識をお持ちか確認するのを忘れてしまい…、とりあえず、数冊見繕ってはきたのですが、先にヒアリングをしてもいいですか?」
「え、あ、はい」
シズクさんは苦笑しつつ、手にメモ帳をもって僕に質問をする。
なんだインタビュー受けるみたいで、無駄にそわそわした。
「まず、タテヤマ様は医療用の回復ポーションの初級を製作可能だと聞いております。傷の修復と体力回復の」
「え、あ、はい」
「そちらは、独学で?」
「あ、いえ。初級までは、ばあ様に効能を教えてもらいました。でも、僕の能力“工房”で作っているので、作り方は違うと思います」
「なるほど。では、そもそも、初級ポーションがどのようにして傷の修復をしているかはご存知ですか?」
「いえ、お恥ずかしながらいまいちわからず作ってました」
それでちゃんと効能のあるもの作れるって、案外工房へ必要な知識やイメージってそこまで緻密なものでなくても良いのでは?とふと思った。
ちなみに、初級ポーションで直せるのは、ほんの小さな傷程度だし、傷が塞がる、傷がひっつくというより、超特急で瘡蓋つくるという感じだ。上級になっても、例えば剣でバッサリ切られたような傷をたちまちなおす、みたいなものはない。クラスがあがるにつれて上がるのは、どちらかというと“体力回復“のほうだ。だから多分、いまじい様たちは上級のポーションで体力を維持させてなんとか命を繋いでいるのだと思う。
「ふむふむ。体力回復についても同様の認識でよろしいですか?」
「え、あ、はい」
僕、さっきから。え、あ、はい、しか言ってないような気がする。
さっきも思ったけど、こう、メモを片手に質問されると言うのはなかなか、緊張するのだ。
「承知いたしました。では、先に治療についての説明からはじめますね」
「え、あ、はい。お願いします」
また言ってしまった。
それにしても、いきなり授業が始まるとは思っていなかったので、ちょっと面食らっている。トウマさんに関しては、まだぶつぶつと独り言を呟いているみたいです。
「まず、傷や病気というのものは【本人の治癒力以外で治せるものではない】というのが、治療についての大前提になります。治癒力は、傷や病気を治す体の機能、体力、魔力を総合したものをそう呼びます。ポーションやその他の薬や、熱を出たときに頭を冷やすなどの対処療法は全て、本人の自然治癒力を手助けするものです。回復ポーションはその最たる例で、本人が怪我を治すための体の働きを手助けして、そのスピードを高めることで悪化することを防ぎます。体力回復に関しては、ちょー体にいいものを食べて、その栄養が身体中に巡るスピードを上げている、とお考えください」
ちょーって言ったのがすごい気になるが、ここは話の腰を折ってはいけないところだ。
ちゃんと大人だから空気は読める僕。ただ真剣な顔して頷いた。
「ですので、本人の治癒能力のスピードを超える勢いで悪化する場合、ポーションでは傷の治療は不可能になります。いま、ハヤテ様やアヤ様はそれに近い状態で、ポーションを少しずつ常に投与することで、体力をなんとか維持し、傷が悪化するのと回復するのを拮抗させている、という現状です。過去に、治癒力とスピードを限界まで高めたポーションを研究した薬師もいましたが、実験段階で、治療するはずの部位とは違う場所に不具合がでるという報告が上がっておりますので、ある程度以上の治癒能力は逆に体を傷つけるのではないか、という研究結果が出ています」
前の世界でいう、自己免疫疾患みたいな感じかなぁ。
それについても詳しくないからわからないけど。
しかし、一気にやるとやばい気がする、というトカチのカンは当たっていたと言うことか。おそるべしパティシエのカン。
「今回は薬ではなく魔法で治す、とのことでしたので」
「はい」
「とりあえず、現在のハヤテ様、アヤ様の症状や、治療方針をまとめた資料が必要かな、と思いこちらにまとめたものを持って参りました。大まかには先ほど伝えた通りですが」
シズクさんの差し出した資料を見せてもらう。
じい様、ばあ様ともに、勇者にお腹の中心をぶすりとひと刺し。そして、立って歩けないほど魔力を奪われていた。
先ほどの話から、こちらの世界の人間は怪我や病気を治すのに魔力も必要であることがわかっているので、治療必要な力3つのうち1つがほぼない状態で大怪我を負ったということになる。枯渇した魔力はそうそう元には戻らない。
正直、なんでじい様たちが生きているのか不思議なレベルだ。
治療方針は、とにかく傷が悪化しない、これ以上の体力を減らさない、がメインのようだ。現状維持が精一杯、ということだろう。
そのための上級ポーション。点滴みたいにつなげて、急激すぎないように常に継続して体にポーションを入れている。
上級ポーションは買おうと思ったらなかなかの値段(材料はそこまで高価ではなないんだけれど作るのが難しいのだと以前ばあ様が言っていた)なので、多分ばあ様のお弟子さんたちが作り続ることで継続的に使ってなんとか、と言う感じなんだろう。
資料を読んでいると、がばっとトウマさんが顔を上げた。
「タテヤマ様。先ほどの話ですが、魔力を支配下におければ、死化粧を生きてる人間に施すことは可能です!」
読んでくださってありがとうございます!
次の更新はまた不定期になってしまいます、中途半端なところで申し訳ありません…。
のんびりお付き合いいただければ幸いです。




