第24話 シズクとトウマ
僕は案外冷静だった。
僕のチート、工房を使うには、知識が必要で、知識というものは一朝一夕に身につくものではないことも理解していたから。
ただ、時間に余裕がないことも事実で、とりあえず今からやることだけを、魔王様に伝言鳩で伝えると、1も2もなく「了解〜♪」と返事がきた。
了解が来てすぐに動く。
まずはじぃ様ばぁ様が匿われている屋敷に再訪。この程度の目隠しは僕にも、魔王様にだって通用しない。
1番僕に好意的なのはミクさんで、だからミクさんに取り次いでもらった。
「タテヤマ様、急にどうなさいました」
「うん、相談したいことができたんだ。じぃ様やばぁ様の様子はどう?」
「変わらずですね、後退もしてませんが、前進も無いです」
「そっか。あのさ、ミクさん基準でいいから、薬師で優秀で教えるのが上手い人と、魔術師で魔力のコントロールが上手い人を紹介してくれないかな」
僕の突然のお願いに、ミクさんはくびをかしげた。
「それは、構いませんが…、でもなぜ?」
「じぃ様とばぁ様を、治す方法を見つけるためだよ」
僕の言葉に、さらに首を傾げるも、ミクさんは、少々お待ちくださいと僕を客間に案内してくれた。
『あるじ、じぃ様たち、治るかなぁ』
「まだ、魔法作ってもないからね。正直わからない。でも、治したいと思うよ。そのための努力は惜しまないつもり」
『主さま以外には、できない方法ですものね』
「うん。」
コロさんやドンさんとそんなふうにお喋りしていると、ミクさんが困ったように眉を寄せる女性と、怒ったように眉を寄せる男性を連れてきてくれた。
「ご紹介します。こちらの女性はシズク。新米の指導を主に担当している薬師です。こちらの男性はトウマ。ここにいる魔術師の中では1番ハヤテ様からの信頼があつく、魔術コンロトールに長けています」
ミクさんの紹介に、シズクさんは頭を下げ、トウマさんは、
「ハッ、勇者サマが、俺みたいな末端の魔術師に何のようなんですかねぇ?」
と、敵意満々で睨みつけてきた。
この人あれだ。僕がここに初めて招かれたときに睨んできた人だ。
コロさんたちが小さく唸ったので、トウマさんは一瞬体を後ろに引いたけれど、さらに睨み返してきたので、なかなか胆力のある人だなぁと思った。
「ちょっとトウマ。タテヤマ様になんて口を」
「ああ、いいですよシズクさん。僕に対して腹が立つのは、理解できるつもりですから」
一応ね。彼らにとっては、人質に取られた挙句、人の国の危機再来にはなにもしてくれなかった、そんな勇者なのかもしれない、とは理解できる。でもね。
「でも、僕もあなた方に対して、腹を立てる権利もありますよね。1番近くにいたのになにやってんだよって。なんでじぃ様ばぁ様が刺されるような状況を許したんだよって」
意識して声を低くすると、3人ともぎくり、と体を震わせた。
「…、すみません。八つ当たりです。トウマさんと同じ」
「は?だれが八つ当たりなんて」
「していたじゃないですか、いまさっき、僕に」
「っ」
ああ、時間がないのにこんなくだらないやりとりはしていちゃいけない。
らしくないな、と自分でも思う。
コロさんドンさんも僕を心配そうにみている。
ああ、情けない。落ち着け、落ち着け。
「僕が、あなた方を紹介していただいたのは、僕の工房が関係しています。…工房、ご存知ですか?」
僕の問いに、シズクさんもトウマさんも頷いた。
「物凄くストレートにいうと、その工房で、じぃ様たちを治す魔法が作れないかっていう相談をしにきたんです。」
「は?」
「治癒の、魔法、ですか?」
2人が目を丸くしたのを見て、ああ、やっぱり似たような魔法すらないんだな、と思った。
これはただの推測だけど、治癒、というのは多分ものすごいややこしい過程があるんだと思う。
元の世界の医学的にいうと、血小板がーとか、白血球がーとかさ。
それをコントロールして傷を癒す、というのは、すごく繊細な魔力操作なんだろう。もともと手先が器用だから、魔力コントロールも苦手ではないけれど、きちんとそれらが得意な人に見てもらいたい。それが、トウマさんを呼んだ理由。そして、傷が治るという過程やじぃ様たちの現状を的確に、そしてこの世界の医学の知識がほとんどない僕にもわかるように説明してくれる人が欲しい、というのがシズクさんを呼んだ理由だ。
2人にそう説明すると、シズクさんはなるほど、と言った後すぐに、資料集めてきますね、と部屋を出て行った。おそらく、了承してもらえたということだろう。
トウマさんは。
「治癒、ではないが、遺体を修復する魔法はある」
そう言って、ミクさんに紙とペンを用意してもらったかと思うと、すごい勢いで図を書き始めた。
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