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殺さず勇者 人畜無害のタテヤマくん  作者: ゆるゆる堂


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23/30

第23話 友人

 ドンさんに乗せてもらって魔の国にある屋敷に戻ると、そこにはひどく安堵した顔のモーダさんとティティさんと、そして、

「やっほー」

 にこにこしてる魔王様がいた。

「は?え?魔王様?」

「うん、魔王様でーす。ほら、とりあえず座ろ座ろー」

 促されるまま、客室に移動して椅子に座る。

 座った瞬間、どっと疲れを感じた。主に気持ちの。

「お疲れ様。一応ぜんぶ把握してると思うけど、タテヤマの口からも聞いていいー?」

 魔王様はのほほんと、ティティさんの淹れたお茶を飲みながら聞いてきた。

 はなから隠せるとは思っていなかったので、僕は、人の国の勇者と王のこと、自分が国境付近に屋敷を構えて双方の壁になりたいこと、それを許可してほしいことを伝えた。

 じぃ様とばぁ様のことは、とりあえず報告保留。

「うんうん。なるほどねー」

「どうでしょう?魔の国にとってはデメリットはあまりないと思うんですけど」

「そうだねぇ」

 魔王様はグイッとお茶を飲み干して、「うん。いいよ」と言った。

「少なくとも、タテヤマが人の国につくことはないと判断できるだけの根拠はあるし、君は味方じゃないけど、魔の国への愛着だってあるみたいだし」

「それはまあ、そうですね。少なくとも、人の国よりは」

 じぃ様ばぁ様とほんの一部の人間のことをのぞけば、人の国への心象は最悪に近い。

「だから、いいよ。時期は?」

「とりあえず未定で」

「うんうんそうだね。ハヤテとアヤも、良くなるといいねぇ」

 ちょっと、どきっとした。

「え」

「もちろん把握してるよ。僕の影たちは優秀だからねー。でもごめんね。人間の治療法とかは専門外なんだ」

「あ、そ、うですか」

 魔王様はダンディな顔をハの字眉に寄せて苦笑した。

「あの2人が両国の和平の道を模索してくれてたのもちゃんとわかってるから。それに「殺さず」の君を育てた人たちでもあるからね。もし、なにかできることがあったら声かけて」

 魔王様はそれだけいうと、じゃあ僕戻るね、とお城へと戻っていく。

 残された僕は、また深く息を吐いた。

「あー…、無力だ」

『あるじが無力なら、みんな無力になっちゃうよー?』

「うん、そうなんだけど。…もっとポーションとかちゃんと勉強しておけばよかったなぁ…」

『おそれながら主さま。ハヤテ様やアヤ様のあの状況では、たとえ上級でもポーション程度では延命するのが関の山かと…』

「それも、そうかぁ」

 はぁ、ともう一度ため息。

 どうにかできないか。僕を守ってくれた人たちを、僕は、救うことができないか。

 エリクサーとかあればいいのに。でも多分、そんな都合の良いものはここには存在しないし、たとえば前一緒にポーション開発した人といちから相談して作ることができたとしても、時間が足りない。

「おい」

「ああ、どうしたら良いんだろう、何ができるかなぁ」

「おい」

「ほんと、どうしたら」

「おい!!」

「え!?」

 突然背中をぱしんと叩かれて、そんな感覚久しぶり過ぎてものすごく驚いた。

 いくら考え事していたとはいえ、攻撃を受けるなんていつぶりだ?

 誰だと一瞬警戒して、すぐに解いた。

「トカチ……」

 トカチの攻撃に、一切の殺気がなかったから気づかなかったのか。

 僕の呆けた顔に、トカチは眉を寄せて、

「おら、なんつー顔色してんだよ」

と、いつもの差し入れを僕に押し付けた。


 なんで、トカチに全部話したのかはわからない。

 自分で思っている以上に、トカチのことを友人として信頼していたのかもしれない。

 トカチは、余計なことは言わず、僕の話が終わるまでただ黙って聞いてくれた。

「ごめんね、一介のパティシエの君に、こんなややこしい話本当はするべきじゃないのかもしれないけど……」

「何言ってんだ。立場とか以前に俺たち友達だろーが」

 馬鹿言ってんじゃねぇ、とトカチは少し怒ったような顔して言った。

 トカチ、いい奴すぎて、真っ直ぐすぎて、なんかこう、30歳泣きそう。

「とりあえず、お前がいいというまで誰にも言わないから安心しろ」

「あ、うん、それは」

 全く心配してなかった。

「にしても、傷を治すなぁ…。ポーションくらいしか思いつかねぇけど、ポーションじゃ間に合わないんだろ?」

「うん。こう、一発逆転癒しの魔法!とかあればいんだけど……」

 うん?と、トカチが唸った。

「どうしたの?」

「魔法?お前傷治す魔法とか使えんのか?つかそんな魔法あったっけ」

「え?ううん。今までそういうのは考えたことなかった、けど……」

 僕たちは同時に叫んだ。

「「工房!!!」」

 そうか、そうだ。

 僕は『魔法を作れる』んだ。なんでこんな単純なことに気がつかなかったんだろう。

 じぃ様やばぁ様を癒せるような魔法を作ればいい。

 ただ、僕の弱点である『具体的なイメージ』が、今のままじゃ足りない。

 人の体の知識も、傷に対する知識も、直っていく途中のイメージも。

「ならわかる奴に聞けばいい」

 トカチが言った。

「さっきの話だと、お前の師匠たちがいる屋敷には薬師?とかがたくさんいるんだろ?そいつらに聞けばいい」

 なるほど、それはいい。

 僕はすぐに段取りをしようと立ち上がる。すると、トカチがボソっといった。

「でもよー、俺は良くわかんねぇけどよ。それだけの怪我、なんとなく、一気に治すとかはリスク高い気はするよな」

「え?なんで?」

「いや、ただのイメージなんだけどな。なんとなく、こう、強火で卵焼きじゅってやっちまう感じがする」

 トカチは、再度よくわかんねぇけどな、と付け足したけれど、僕には、案外そういう感覚は侮れないものだとここに来てからの戦いのなかで実感があった。

「うん。そうだね。そうかも。ありがと、気をつけておく」

 頷くと、トカチは困ったような笑顔になったが、うん、とうなずいて、そして、大きくて暖かい手で、僕の頭をぽんぽんと撫でる。

「え、ちょ、僕もういいおっさんなんだけど?」

「いいじゃねぇか。減るもんでもないし」

「いや、そうだけど……」

「今回のこと、無理すんな、とは言わねぇけどな。お前自身のことも、ちゃんと大事にしろよ?」

「…うん、ありがとう」

 むず痒いけれど、彼の心配は、ちゃんと受け取ろうと、そう、思った。

PV、ブクマ、評価ありがとうございます!!


トカチはいい奴です。

年齢出てませんが、一応タテヤマくんより年上だったりします。

クゥちゃんとは歳の差カップル(笑)

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