第22話 死なないで
「あ、あのぅ」
しばらく泣いてたら、斜め後ろからおずおずと、少し震えた声が聞こえた。
敵意を感じなかったから、振り向いて、なあに?と返すと、そこに立っていたのは、騎士の格好をした少女だった。
なんとなく、見覚えがある。
ああ、そうだ。
「ばぁ様のお弟子さん……、ミクさん、だっけ?」
少女は目を見開いて、そのあと、きゅっと唇を噛んでから改めて声をかけてきた。
「こんな末端の薬剤師の名を覚えてくださっていて、光栄です。タテヤマ様。お伝えしたいことがございまして」
「なに、じぃ様とばぁ様が実は生きてましたー、みたいなご都合展開でもあった?」
現実がそんなに甘くないことくらいよくわかっている。
こんな夢見たいな、ありえない世界でも、今の僕にとっては紛れもない現実なんだから。
けれど、ミクさんは「ぇ」と固まった。
「……え、うそ。本当に?なに、本当にじぃ様たち生きてるの?」
「……、全くの無事とは到底言えませんが、命は繋がっております」
含みのある言い方だけど、生きている、というのは間違いなさそう…?
でも、ええと、ええと、……本当に?じぃ様たちが、生きてる?
「もしタテヤマ様が私のことを信用してくださるのであれば、ハヤテ様とアヤ先生のところへご案内いたします」
「うん、よろしく」
即答した僕に、ミクさんは「え?」と聞き返してきた。
「あの、それは」
「うん。貴方のことを完全に信用したかと言われたら答えはノーなんだけど、貴方が例えば罠を張っていたとしても、僕はそれを回避できる自信があるから。それなら、じぃ様とばぁ様に会える可能性を拾う方が優先かなって」
「なるほど、納得いたしました」
ミクさんは、見た目の年齢よりも丁寧な話し方をするな。
そんなことを考えながら、僕とコロさんドンさんは、ミクさんに案内されるまま、すぐ近くの森へと進んだ。
その道中、ミクさんがじぃ様たちの状態について説明してくれた。
伝え聞いていた話と僕の予想は大体当たっていた。
じぃ様たちは、とある貴族にハメられて、身体能力を奪う魔法をかけられていたらしい。じぃ様たちの不意をつけるような貴族といえば、思い当たるのは1人しかいないけれど、それはこの際どうでも良い。思い当たるあの人なら、僕がいつ復讐に来るかと勝手に怯えて憔悴してくれるだろうし。
とにかく、そういう状態にされた上で王命で反逆罪として捕らえられ、その魔法をかけられたまま、魔術師たちでは足りなかった魔力の補填道具扱いされて、召喚された勇者に刺されて生死の境を彷徨っている、ということだった。
刺したあとはどうせ動けないしそのまま死ぬだろうと王たちはじぃ様たちを放置していたらしく、ミクさんをはじめとするじぃ様ばぁ様を慕っていた人たちが2人を回収、匿いつつ治療に当たっているらしい。
2人は現在、意識は時々戻るものの、なかなか予断を許さない状況。
ミクさんは、王命によりあの勇者の側付きにされていたらしい。
それを断ると、じぃ様やばぁ様から教えを受けていた人たち全員を反逆罪と見なすとか言われたんだって。ほんっと、クズだな。あの王様。
そんな話を聞いているうちに、魔術で目隠しをしてある館に到着した。
小さな洋館って感じの中は、衛生状態を保つために掃除はきちんとされているようだけど、ほとんど家具もなく、なかはがらんとしていた。
人の気配だけが浮いている、変な感じ。
「こちらです」
ミクさんに連れられて廊下を歩く。すれ違う人たちは目を見開いて僕をみて、一礼する。一部、睨んでくる人もいた。
気持ちは、わからないでもないけれど、僕は魔の国にいた。逆に僕が睨みつけてもいいくらいじゃない?という気もする。睨まないけども。
「どうぞ」
促されて入った先には、ベッドに横たわる2人がいて。
いきが、つまった。
硬く閉じられた目が、荒い呼吸が、色のない顔が、彼らの命が綱渡り状態なのだと僕に突きつけてくる。
でも、生きていた。
「じぃ様たちは、助かりますか」
僕の問いに、ミクさんは、口をつぐむ。
僕は、じぃ様とばぁ様のそばにしゃがんだ。2人の手に触れる。
「…、じぃ様、ばぁ様。…死なないで」
後ろでコロさんがくぅん、と鳴く。
ドンさんは首を垂れていた。
しばらくそうしていてから、僕は立ち上がる。
「一旦、魔の国に帰ります。魔王様に状況を伝えないといけないし」
「そうですか」
止められるかなと一瞬思ったけれど、そんなことはなく、ミクさんはじめ、屋敷にいる人たちは僕に一礼しただけだった。
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じい様たち生きてました!!
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