第21話 宣言
僕の剣は、細くて軽い。
勇者は侮った顔で笑った。
「はっ、そんなヒョロイ剣しか使えないなんて、ほんとお前はへなちょこなんだなぁ?」
「見た目でしか判断できない君の方が、よっぽどだと思うけど?」
はっ、と嫌味っぽく笑って見せたら、勇者の顔がかぁ、と赤くなった。
そして、大振りで切りかかってくる。
隙だらけ。
まって、こいつに本当にじぃ様はやられたの?
ちょっと信じられないんだけど。
とりあえず、彼の攻撃を避けて、僕は剣を彼に向けて振り抜く。
その瞬間に剣に魔力を込めた。切れ味、グレードアップ。
勇者は驚いたように目を見開いたが、ちゃんと僕の剣を受け止めた。
咄嗟に彼も魔力を込めたらしく、ヒビは入っても折れていない。
魔力量、もしかしたらじい様と同じくらいある?
なかなかやるね。それはそれは人の国の王は喜んだことだろうよ。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
少し距離をとって、彼に尋ねる。
「ああ!?」
「ハヤテ、という騎士と、アヤ、という薬師知ってる?」
「は?ああ、あのジジイとババアか。そういやあんたの師匠だっけかあ?」
勇者はにやぁ、と笑った。
「王が俺の指南役にとか言ってたらしいが、拒否しやがったから、ぶすっと一発刺したぜ?もう死んでんじゃねぇの?」
あんな弱いジジィに教わったんだから、テメェも弱いよな、と、言外に言っている。
気がした。
ああ、もうダメだ。
「あのさあ」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
「君、まだ本気で僕のこと弱いと思ってるわけ?」
加速して、左から彼の脇に蹴りを一発。
めきっと音がして、勇者は右に吹き飛んだ。
吹き飛んだ先に移動して、飛んできた勇者の顔面を真正面からなぐる。殴ったままじめんに押し付けた。
ぐがっ、と呻いたが、単純な身体能力はたぶん召喚時に上がっているだろうから、これくらいで致命傷にはならないはずだ。痛いだろうけど。
僕は本来誰かを痛めつけるとか、好きじゃないし、今だって気分が悪い。
弱いものいじめだから。
でも、ひりひりと冷えていく怒りをどうしていいか、ちょっとわからない。
じぃ様、ばぁ様、情けない弟子でごめん。
「ひ、い」
「あのね、僕は『殺せなかった』んじゃないよ。殺さなかったんだ。この違い、君にわかるかなあ」
倒れ込んだ勇者の胸に足を置いて、ちょっとだけ力を入れる。
痛くはないだろうけど、怖いと思う。
このまま踏まれれば、死ぬんじゃないかって、そんな恐怖を、感じているだろう。
さっきまでの虚勢はどこへやら、まるで雑魚のように怯えている勇者が、滑稽で、はっと笑いが漏れた。
魔王様より、今の僕のがずっと魔王っぽいんじゃないかな。
「殺すより殺さない方が、ずっと難しいんだよ。今だって、どれだけ加減してると思う?」
「あ、…あ…」
「多分ね、君にもチート能力ついてるよ。でもね、使いこなす努力もしてない君に、歴代召喚者でも屈指と言われた僕に叶うと思うの?都合の悪いこと全部「どうせ大袈裟に言ってるだけだろ。王がそう言ってる」って思ってたんじゃないの?馬鹿だよね。自分が信じたいことしか信じないとか、本当馬鹿だよね」
僕の足の下でどうにか逃げようと魔力展開していることだけはちょっと褒めてあげてもいいよ。全部邪魔して打ち消してるけど。
「あのね、正直、魔の国のほうがずっと穏やかだよ。王の素質だって上だろうね。でも別に僕は魔の国に加担して人の国を滅ぼす気はないし、ましてや今から人の国に味方する気もない。ただ、魔の国や人の国で生きてる大勢の人たちが、どちらかの王のために再び巻き込まれるというのであれば」
ふう、と一旦空を仰ぐ。
かわらず、二つの太陽がかがやいている。
そしてそのまま、呟いた。
「僕は全力で、その戦を叩き潰すよ」
声に出すと、なんだかちょっと落ち着いた。
うん。前に決めた通りになるだけだ。
僕は、人の国からも、魔の国からも干渉しえない第3勢力になろう。
生きている間は、戦なんてもう、起こす気が出来ないくらい、圧倒的な存在になってやる。
足を上げると、勇者はひぃぃぃぃ、と後ずさった。
あの状態から動けるのは、さすがチート、というところか。
「ドンさん、コロさん、ごめん、そばにきてくれない?」
僕の声に、2人はすぐに反応して、僕を包んでくれた。
コロさんの毛皮は暖かくて、ドンさんの鱗はひんやりと冷たい。
ほう、と息を吐く。
そして、遠巻きに見ている騎士たちに、声をかけた。
「さっき言ったこと、人の国の王様に伝えてくれる?あと、僕は『殺さなかっただけだ』ということも」
殺せないわけではないと、いうことを。
「は、はいぃぃっ」
誰が答えたのかはわからないまま、騎士たちは勇者を抱えて元来た道を戻り始める。
勇者、動けないの?あれ?っと思ったら気絶してるみたいだった。
あの勇者もね、突然こんなところに呼び出された上に、前任者にコテンパンにのされて、なのにもう帰ることもできないんだから状況的には、かわいそうと言えばかわいそうだよね。
じぃ様とばぁ様を手にかけて、無関係の人たちに高圧的な態度をとっていたという部分から、彼に同情するつもりはないんだけど。
あー、またぐるぐると感情が揺れる。
うまく思考がまとまらない。
さてこれからどうしよう。
多分、いまのやりとりは魔王様には筒抜けだし、隠す気もないし。
「コロさん、ドンさん…僕疲れたよ…」
ぎゅう、と2人を抱きしめる。
コロさんは頬をなめてくれて、ドンさんも優しく寄り添ってくれて、内心ぐちゃぐちゃのまま、しばらく泣いた。
PV、評価、ブクマありがとうございます!!
もう少しシリアス風味が続きますが、よろしければお付き合いくださいませ!




