第20話 前勇者と新勇者
「君が、勇者?」
魔王様に許可をもらって、僕はすぐに行動に移した。
モーダさんとティティさんにだけ「しばらく家をあけます」とだけ伝えて、あとは誰にもバレないように国境を越えた。
モーダさんもティティさんも、魔王様から概要は伝えられていたらしく(テレパシーみたいなものなのかな)声をそろえて、「お気をつけて」と初めてあったときのように美しい礼で見送ってくれた。
国境付近までは、ドンさんに乗ってならすぐだ。
馬車に乗せられて魔王城まで行くのは遠かったなぁ、なんて思い出す。
勇者の元に向かう途中も勇者の情報はどんどん更新されて、更新されるたびに僕の眉間のシワは深くなった。
魔力量は多く魔法を使うのが得意らしいが、それを威張ってやりたい放題だとか。
女を要求しては抱き潰しているとか。
魔族はみんな奴隷にしてしまえと言ってるとか。
途中の街で暴れて店ひとつ潰したとか。
ろくな情報が入ってこない。
ただ確実なのは、勇者はろくな訓練もしないまま、俺は強いから大丈夫だとタカを括って魔の国に向かっているということ。
それならば、勇者が必ず野宿しないといけない場所を知っている。
人の国は土地が痩せて人が住めない場所がいくつもある。
だから僕はそこで待ち伏せすることにした。
そして、今、僕の目の前に『勇者』は立っている。
金髪プリン頭に、両耳に派手なピアス。多分、彼の趣味だと思うけど、成金が好みそうな派手で高そうな洋服。人種は、多分僕と同じ地球の日本人だ。
(柄悪そう)が第一印象。
勇者のまわりには、疲れた顔の騎士たち。彼らは僕らを見て、目を見開いていた。
「誰だテメェ」
「ねえ、質問には答えてくれないの?君が勇者?」
ぎり、と睨まれるが、僕にそんな程度の威圧聞くわけないでしょ。
あ、でも僕のことを彼は知らないのか。
「ああ、そうだよ。俺様が勇者様だ!テメェみたいなガキが偉そうに俺に口聞いてンじゃねぇぞ、こら」
(がらわるー)印象更新。内容変わってないけど。
まわりにいた騎士たちが、やばい、やばいぞ、って勇者をちらちらみている。
止めた方がいい、と思っているようだけど、止められない様子。
人望ないね、現勇者くん。
目測僕より年下な気がするけど、まあ、僕も大概だからそこは不明。
「少なくともガキではないかな。僕こうみえて30歳。よろしく」
こないだ誕生日きたからね。三十路デビューを異世界でするとは思ってなかったなぁ。
「おちょくってんのか、ああ!?」
「大真面目だよ。ねえ、周りの反応見てなにか気がつかないの?」
「何がだよ!!」
「君の周りの騎士はみんな、僕のこと知ってるみたいだけど?」
「ああ!?」
そこで、ようやく周りをみた勇者に、1番近くにいた騎士がささやいた。
「あなたの前に召喚された、勇者様です」
聞いた瞬間、勇者はにやぁ、と笑った。
「てめぇか!魔族、魔獣の1人も殺せなかったへなちょこ勇者ってのは!!」
「うん?」
「王が言ってたぜぇ?魔族は悪だってのに、話せばわかるとかなんとか言ったあげく、魔王の首じゃなくて停戦なんていうのを持ち帰ってきたから、魔族側に人質に送ってやったって!!」
「……」
人の国の王よ。あなたは本当に、人の上に立つべき人間ではないんだね。
ああ、ドンさん、コロさん、落ち着いて。
「なんだよ、人質としての価値もなくなって追い出されたのか?ああん?」
「だからさ、周りの反応見てみなよ」
「あ?!」
「君の言葉に対して、僕の力を知っている騎士がどういう反応してるか、わからない?」
勇者の言葉を聞いた騎士は、ゆっくりと後ずさっていた。
彼のそばにいる騎士は僕の実力を実際に見たことがあるものがほとんどだし、正直、人を連れていたころよりも、僕は強くなったし、コロさんやドンさんもいる。
そして、魔力の感じや、その騎士の反応から鑑みるに、この勇者は僕より弱い。
人の国の騎士たちは多分、僕がハヤテじぃ様やアヤばぁ様の仇討ちをしにきたと思ってるんだろう。そんな反応だ。
「あんだよ、お前みたいなへなちょこに、俺が倒せるとでも思ってんのかよ、殺せず勇者のタテヤマさんよぉ?」
勇者は剣を抜く。
人の国の王が彼に僕のことをなんと言っていたのか、というのは彼の言葉で証明されたけど。突然与えられた力と立場に溺れると、こんな風になるんだなって、勇者を見ながら思う。
「ドンさん、ちょっと暴れるから、逃げようとしている騎士が怪我しないようにフォローしてくれる?」
『かしこまりました、主さま』
「コロさんは、もし万が一勇者に加担しようと頑張る騎士がいたら、僕らの邪魔しないようにフォローして。あ、でも、騎士さんたち殺しちゃダメだし、大怪我もさせないようにね」
『わかったよ、あるじ!』
コロさんとドンさんが構えたのを確認してから、僕も剣を抜いた。
PV、ブクマ、評価、本当にありがとうございます!!
新しい勇者さんは、いわゆるクズです。




