第16話 立ち位置を、決意する
ヂヂッ、ヂヂッと虫が鳴いている。
空は良く晴れていて、青が目に痛いくらいだ。
ドンさんが今の寝床にしている、少しひらけた場所で、僕は立ち止まった。
ゆっくり座ると、コロさんが僕を包むようにして寝そべってくれて、ドンさんはドラゴンの姿でコロさんと僕を包むようにまた寝そべってくれた。
コロさんの毛皮に顔を埋めて、うー、と唸る。
どうしようもないぐちゃぐちゃとした感情に振りまわされる。
まずはこれを落ち着けないことには、考えもまとまらない。
「僕29歳だよ。もういいおっさんなのに、自分の感情ひとつ制御できない」
『あら、私なんてもう1000を軽く超えてますが、感情なんて制御できませんわよ?』
『ボクもボクもー!』
「コロさん、ドンさん…」
2人の声が、言葉が、優しくて。
ぼた、と涙が落ちた。
人の王に召喚されたとき、「この国を救ってほしい」と言われた。
僕はそれを聞いて、魔王は悪で、倒すべき存在と一旦認識した。
でもすぐには戦えない、能力の制御ができない僕をみかねたじぃ様が僕に剣術と魔術を教えてくれて、魔力や工房の能力を使いこなせるようになったあたりで、気づいた。
魔の国は防衛はしても、『侵略』はしていない。
力押しではなく、被害を最低限に抑える作戦を練っている。
だから、『対話』が可能だと信じた。
四天王の皆さんや、魔王様に直接会ったとき、『話がしたい』という言葉が届くように、僕は『殺さず』を貫いた。
だけど、この戦いで死人は出ていないというのは、誤りだ。
僕が召喚されるまで。僕が戦場に出られる力を手に入れるまで。
それまでには、…たくさん死んだ。
死んだ人たち、魔族たち、僕がしてきたこと。
それらは全て無駄だったんだろうか。
人の国の王よ。あなたにはなにが見えて、なにが見えていないのか。
魔の国を滅ぼせば、無条件に国が豊かになる。本気でそう信じているのか。
そこまでの犠牲は「尊い」という言葉だけで片付けられていいのか。
「コロさん、ドンさん、僕」
僕は。
「人の国の王が、嫌いだ」
僕のその呟きに、コロさんもドンさんも、肯定も否定もしなかった。
ただ、静かに僕の次の言葉を待っている。
そうか。僕は。
「もし、開戦したら、今度は、僕は、人の国の王にはつかないよ」
じぃ様とばぁ様が人の国にいたとしても、僕は、もう人の国の王を守りたいとは思えない。けれど、人が死んでいいとも思えない。魔族が死んでもいいとも思えない。
「かといって、魔の国につくわけでもない。僕は、僕として、戦場に立つ」
人を、魔族を圧倒する存在として、僕は、戦場に立つ。
僕がいる限り、人と魔族が殺し合いができないような存在になりたい。
絶対敵わない、そんな存在になりたい。
平凡な男が持つには大きすぎる力があるんだから。
『では、私はその右腕となりましょう』
『じゃあボクはひだりうでー!』
「…ッ」
いいの?とは聞き返さない。
2人の選択は、2人のものだ。
「ありがとう」
2人を抱きしめる。
そのあと、涙が乾くのを待ってから、僕たちは家へと戻った。
PV、ブックマークありがとうございます!
今回はちょっと短めです。
次話、魔王様とじぃ様ばぁ様が面会します。




