第十二話 ドンさんのひみつ②
「? どういうこと?」
『空に返すのは、ほんの数枚で、あとは、捨てても構わないのです。だから、炎魔法が苦手なスカイドラゴンでも、可能だったのです』
ぽつり、ぽつりと話すドンさんの話はこういう事だった。
スカイドラゴンは基本的に炎系の魔法が得意ではない。
だから、一族の決まりとして鱗は返すのだが、それは数枚で良かった。
けれど、捨て置いた鱗を拾って武器などに加工する人間が出てきた。
スカイドラゴンの鱗は、風魔法への防御力が上がったり、魔法を使う補助役割を果たすことが人間に発見され、”衣替え“を知らない人間たちは、鱗を求めてスカイドラゴン狩りを行った。
ドラゴンがいくら強い種族といって、みんながみんな戦闘が得意なわけではなく、またドラゴン狩り専門の武具や罠を揃えた人間たちに、弱い個体からどんどん狩られてしまった。
もともと数の多い種族ではない。
そうこうしているうちに、強い個体は魔の国の秘境へと住処を移し、弱い個体は狩られ、まだ子どもだったドンさんは、山のなかで母親と2人取り残されることとなった。
脅威は人だけでは勿論ない。モンスターの世界は弱肉強食。
そうして、母親も死んでしまったドンさんは、1人になった。
けれど、強い個体であったドンさんは1人になっても生き延び、そして、僕と出会ったのだ。
仲間がみんな死んでしまった、という話は知っていたけれど、それを行ったのが人間だというのは初めて知った。
遠い昔の話だというけれど。
僕はこの世界に来てから2年、ドラゴンの鱗が武具として使われているのを見たことない。ドラゴンの鱗を使った武具は伝説だと。それくらい昔の話だというけれど。
ドンさんがどんな気持ちで僕に仕えて、戦ってくれたのか。
ぎゅ、と胸が締め付けられる。
『ですから、人に奪われるのが怖くて、全て燃やしてもらっていただいてましたの…。でも、その…』
過去を話している最中は視線を遠くへ向けていたドンさんは僕のほうを見た。
『主さまは、工房を持たれるのでしょう?』
「え?ああ、うん。魔王さまの許可がおりたらね」
『でしたら、私の鱗、どうぞ素材として使ってくださいませ』
「ドンさん!?」
『戦いは終わったのでしょう?でも、私はまだまだ、主さまのお役にたちたいのです』
鶴の恩返しみたいだ、とふと思った。
ドンさんの優しさや、思いがぎゅう、と伝わってくる。
でも。けど。
「それは、できないよ、ドンさん」
『何故ですの?私の鱗は、素材としては一級品ですのよ』
「うん、それはわかるよ。いつも綺麗だなって思いながら燃やしてた」
『でしたら、なぜ…』
ドンさんの声が震える。
ドンさんの首が垂れる。
ああ、違う、泣かせたいわけじゃないんだ。
「ドンさんの気持ちはすごく、すごく嬉しいよ」
でもね。
「ドンさんの鱗を、ドンさんの綺麗なこの鱗を、…僕以外のだれかが持つのは、いやだなぁって」
『!! あ、主さま…』
驚いたように顔を上げたドンさんに笑って見せた。
「ごめんね、ただの僕のわがままだ」
『…あるじさま…』
しばらく沈黙が流れて、そのあとドンさんが意を決したように、主さま、と言った。
『ではせめて、工房のお手伝いはさせてくださいませ』
そういうと、青白くドンさんの姿が光って、見えなくなる。
「え?え??」
次の瞬間、僕の目の前には、ドンさんの鱗と同じ色をした美しい長髪の、女性が立っていた。
「ど、どど、ドンさん…?」
「はい」
「人に、なれたの…?え、魔獣じゃなくて、スカイドラゴンは魔族…??」
「そうなりますわね」
人の姿のドンさん、美人すぎて直視できない。
2年一緒にいて初めて知った衝撃の事実…。
「主さま」
「は、はい!!」
「この姿でも、私はそばにいてもよろしいですか?」
ぎゅっと抱きしめられて、あ、ちょ、やわらかいあれがそれでこれで。
「え、ええと?どういうこと?」
「主さまは、ドラゴンの姿をとても気に入っていらしたでしょう…?」
「え、ええ?いや、まあ、でも、どっちのドンさんも綺麗だよ」
心配そうなドンさんの声に、ちょっと落ち着いた。
「うん、どっちも綺麗だ。ありがとう、教えてくれて。もちろん、どちらの姿でもそばにいて欲しい、ドンさん」
かぁ、と赤い顔になったドンさんは、それはそれは美しい微笑みを浮かべて、頷いてくれた。
このあと、息を切らして帰ってきたコロさんが、『わぁーっ!ドンさんきれー!』と尻尾を振って、なんか、和んだ。
ドンさんは女性です。
コロさんは男子です。
タテヤマくんは漢です(笑)
話の展開がゆっくりですみません;
読んでくださってありがとうございます!




