分裂理由<綺羅の章>
クラブ活動は、思いのほか楽しかった。斎藤さん以外のメンバーも穏やかな性格の人ばかりで、居心地がいい。
瑠璃ちゃん達も時々ふらっとやって来て一緒に作った物を食べることもしばしばだ。
「でも、何だって分裂したんだ?」
「考え方の違いというのが一番ですかね。向こうはすっごく縦社会なんです」
「縦社会? いやお前達は文化部だろ? 私達とは違って」
「いえいえ、佐々木さん。文化部だって十分縦社会ですよ。それに運動部よりネチネチして陰湿ですよ。けっこう」
「あぁ、そっちのほうが大変そうだな」
「あ~、あそこは色々問題があるのよ」
「静音!? どうしたんだ、めずらしい」
突然、現れた静音に皆驚く。彼女は、帰宅部なので放課後になるとすぐに下校して行くのだ。そんな綺羅達を見て静音は、ふふっと意味深な笑顔を浮かべながら瑠璃の隣の席に座る。
「静音ちゃん、紅茶でいい?」
「ありがとう、綺羅。ストレートでね」
「何だ、何か知っているのか?」
「あそこはね、色々あるのよね。元部員に生徒会の高岡先輩がいたの。その彼女が問題なのよね~」
「元?」
「あぁ、彼女は生徒会入りと同時に退部してるのよ。部員の自分が役員だと公平性にかけるとか言ってね」
「そうらしいですね。先輩から聞きました。でも辞めたと言っても表向きだけですけど」
「やっぱりね~。実質取り仕切っているのは、彼女だもん。元々、第一家庭科室は彼女の親が改装したからね。娘の為に」
中等部の校舎にある第一家庭科室は、最新の設備と最新の調理器具などが全て揃っている。噂では、ある生徒の親の寄付金で作られたと聞いていた。そのある生徒が高岡というのは、瑠璃は初耳だった。
「第一家庭科室の占有権がある家庭科部にとっては、まさに女王様な訳よ。そのせいで先輩方も彼女をちやほやしているらしいしね。それだけの扱いを受ければ勘違いしそうだけど、彼女はきちんと先輩を立てていたらしいから。ますますね。でも、彼女の人当たりの良さは表向きだけど。そうよね、斎藤さん?」
「はい」
「そうなのか?」
「高岡先輩は、かなりの策士ですよ。自分にはむかう部員はかならず退部に追い込むんです。何気なくその人に対する愚痴をこぼして周囲の人間を動かすんですよ。うちのクラブの部長もそうです。他の生徒と同じ扱いをするべきじゃないかって意見したら、その翌日から総スカンです」
「そうやって追い出されたのが彼女達って事。でも、意外なのがあなたなのよね?」
「私ですか?」
「えぇ、あなたってかなり彼女に可愛がられてたみたいだし?」
「まさか! 父親が彼女の両親の後輩で昔から交流があったんです。そのせいかパシリとして使われてたんですよ。だから、可愛がられてたのとはちょっと違います」
「そうなの。大変ね~、親の付き合いに巻き込まれると」
静音の慰めに「本当ですよ」と肩を落とす彼女の姿は、心底そう思っているようだった。でも、その態度にどこか違和感を覚える瑠璃だった。が、その違和感の正体が何のかまでは見当がつかなかった。