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A love capriccio  作者:
53/67

彼の誓い

 「いた!! 綺羅!」


 輝と二手に別れた後、俺は街外れにある公園に来ていた。ここは、丘の上にあって、公園の奥には展望台もある。街を見渡せるこの場所は、綺羅のお気に入りの場所の一つ。

 しかし、もう夕暮れ時でだんだんと日が落ちてきていた。展望台の周辺は夜になると何かと物騒だから1人では行かないようにと学校でも言われている。

 あの綺羅が教師の言いつけを破るとは思えないが、念のために来た。そして、それが当たりだった。展望台のベンチにポツンと座る見慣れた後ろ姿を見つけのだ。


 「え?」


 俺の声が聞こえたのか、綺羅はゆっくりとこちらを振り返った。その瞳は、驚きからか大きく見開かれている。


 「何やってんだよ。輝、心配してるぞ」

 「ごめんなさい」

 「ほら、帰るぞ」


 綺羅の腕を引っ張る。すると、彼女の膝の上から小さな鳴き声が聞こえてきた。


 「猫?」

 「…………うん。ここに捨てられてて。お腹がすいてるみたいで鳴きやまないの。だから………」

 「ほっとけなくて、帰れなくなったと」

 「だって、うちじゃ飼えないし」


 綺羅の膝の上に丸まる薄茶色の毛をした子猫。その毛色が綺羅と被る。


 (輝、アレルギーだしな)


 「よし。家で飼ってやるよ。それなら、綺羅も様子が見れるだろう?」

 「いいの?」

 「あぁ。母さん、猫好きだし。さぁ、帰るぞ」

 「ありがとう」


 今度こそ綺羅は、俺が差し出した手を取った。そのまま2人で手を繋いで道を歩く。こうやって、手を繋いで歩くのは、いつぶりだろう。

 学年が上がるにつれて綺羅は、俺と距離を空け始めた。理由は、何となく分かる。最近出来た女友達達の影響だ。

 それは、とても不愉快だが我慢するしかない。友達が出来たと喜ぶ綺羅の為にも。


 「…………綺羅。綺羅は、可愛いよ」

 「え? どうしたの? 急に」

 「いいから。綺羅は、可愛い。誰が何と言おうと俺と輝は、知っている。だから…………」

 「?」

 「側にいるから。ずっと、隣にいるから。とにかく覚えててくれ」

 「…………ありがとう。要君」


 俺の言葉に彼女は、いつものふんわりとした笑顔で答えてくれた。

 でも、この数日後、彼女は、全てを忘れてしまったんだ。俺の一方的とも言える誓いと子猫の事を。

 それでも、君が笑っていられるのなら思い出さなくてもいいよ。

 俺には、あの日の君の笑顔とこいつがいるから。

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