彼の誓い
「いた!! 綺羅!」
輝と二手に別れた後、俺は街外れにある公園に来ていた。ここは、丘の上にあって、公園の奥には展望台もある。街を見渡せるこの場所は、綺羅のお気に入りの場所の一つ。
しかし、もう夕暮れ時でだんだんと日が落ちてきていた。展望台の周辺は夜になると何かと物騒だから1人では行かないようにと学校でも言われている。
あの綺羅が教師の言いつけを破るとは思えないが、念のために来た。そして、それが当たりだった。展望台のベンチにポツンと座る見慣れた後ろ姿を見つけのだ。
「え?」
俺の声が聞こえたのか、綺羅はゆっくりとこちらを振り返った。その瞳は、驚きからか大きく見開かれている。
「何やってんだよ。輝、心配してるぞ」
「ごめんなさい」
「ほら、帰るぞ」
綺羅の腕を引っ張る。すると、彼女の膝の上から小さな鳴き声が聞こえてきた。
「猫?」
「…………うん。ここに捨てられてて。お腹がすいてるみたいで鳴きやまないの。だから………」
「ほっとけなくて、帰れなくなったと」
「だって、うちじゃ飼えないし」
綺羅の膝の上に丸まる薄茶色の毛をした子猫。その毛色が綺羅と被る。
(輝、アレルギーだしな)
「よし。家で飼ってやるよ。それなら、綺羅も様子が見れるだろう?」
「いいの?」
「あぁ。母さん、猫好きだし。さぁ、帰るぞ」
「ありがとう」
今度こそ綺羅は、俺が差し出した手を取った。そのまま2人で手を繋いで道を歩く。こうやって、手を繋いで歩くのは、いつぶりだろう。
学年が上がるにつれて綺羅は、俺と距離を空け始めた。理由は、何となく分かる。最近出来た女友達達の影響だ。
それは、とても不愉快だが我慢するしかない。友達が出来たと喜ぶ綺羅の為にも。
「…………綺羅。綺羅は、可愛いよ」
「え? どうしたの? 急に」
「いいから。綺羅は、可愛い。誰が何と言おうと俺と輝は、知っている。だから…………」
「?」
「側にいるから。ずっと、隣にいるから。とにかく覚えててくれ」
「…………ありがとう。要君」
俺の言葉に彼女は、いつものふんわりとした笑顔で答えてくれた。
でも、この数日後、彼女は、全てを忘れてしまったんだ。俺の一方的とも言える誓いと子猫の事を。
それでも、君が笑っていられるのなら思い出さなくてもいいよ。
俺には、あの日の君の笑顔とこいつがいるから。