彼の焦り<綺羅の章>
それからの日々は、今までにないくらいの楽しさ、喜び、驚きを私にもたらしてくれた。彼女達と一緒にいると時間があっという間に過ぎてしまう。以前の自分ならありえない変化。でも、この時は、自分の事を優先しすぎて考えてもいなかった。彼がそんな自分を見て何を思っているかを。
「綺羅! 今日は、生徒会がないんだ。一緒に帰らないか?」
「あ、ごめんね。今日は、瑠璃ちゃん達と買い物して帰るの」
「……………最近、忙しそうだな」
「?」
ボソリと呟いた要の様子に綺羅は、眉をひそめる。表情は、いつもと変わらないように見えるが、若干いらだっているように感じるのだ。
「要君。どうしたの?」
「………………」
無言で自分を見つめ続ける要にどうしたものかと考える。せめて、理由を教えてくれないかと思っていると、呟きが聞こえた。
「え? 何?」
「………………もう必要ないんだな。分かった、遅くならないように気をつけろよ」
そのまま要は、鞄を持ってすたすたと教室から出て行ってしまう。綺羅は、呼び止めようとしたが、彼の背中がそれを拒否している気がして出来なかった。
「どうしたの? 綺羅」
「礼奈ちゃん。…………何か要君の様子が変なの。何かいらだってる感じがして」
「それには気がつくのに、肝心なことには気づかないのね」
「?」
「焦っているのよ、彼は。さぁ、行きましょう」
ますます、困惑する綺羅を促すと礼奈は教室の出口へと歩いて行く。そんな彼女達のやり取りを見ていた男子生徒が1人いた。彼は、大きな溜息をつく。そして、周囲の友人達へ別れを告げると足早に外へ向かったのだった。