初めての出会い<綺羅の章>
――――入学式から1週間。
情けない事に友人と呼べる人間は、1人も出来なかった。理由は簡単で、元来引っ込み思案な性格が邪魔をして自分から他人に話しかけることが出来ないのだ。それでも、小等部までとは違いいじめられるという事はない。
クラスメイト達も皆用事があれば普通に話してくれるし、班を作って活動する場面でも色々と気をつかってくれるのでつらくはない。つらくはないけれど、少し寂しい。
「綺羅、どうした?」
「何が?」
「箸が止まってる。具合でも悪いのか?」
「ううん、そんなことないよ」
そう自分を気づかってくれる要に、心配をかけない為に止まっていた箸を動かす。まさか、あなたのせいで食欲がないとは言えないから。
そう、この1週間。何か変わったことがあるかと問われれば1つだけある。それは、入学式以来、何故か要が自分にべったりとくっついて行動していること。
いくら兄に頼まれたからとは言え、トイレ以外ほとんど一緒にいるのは少々異常とも言える。
「萩野君、渡瀬さん。こんな処でお昼?」
「高岡先輩」
入学式で知り合って以来、高岡先輩とはよく顔を合わせる。それは、要君が生徒会の手伝いをしているからで、大体は用事が合って彼を探している時だった。
先輩は、明るくて美人。誰にでも人当たりが良いので色々な人に慕われている。自分もその1人だけど。
「どうしたんですか?」
「ごめんね、お昼中に。体育祭と文化祭の予算配分の計算に誤りが見つかったの。悪いけど、一緒に来てもらえる? 私と会計の子だけじゃ、手が回らなくて。文化祭は、各部活やクラスへの予算配分等もあるし色々と作り直さないといけなくて」
「会長は?」
「それが、どこにもいないのよ。誤りを見つけてくれたのは彼なんだけど。書類に付箋1枚貼って消えちゃったわ」
「あの人は…………。綺羅、悪いが…………」
「私は大丈夫だよ。早く行ってあげて」
「悪いわね、渡瀬さん。そうだ、お詫びと言っちゃ何だけどこれあげるわ」
「ありがとうございます」
手渡されたのは、可愛くラッピングされたお菓子の包み。
「家庭科部の子に貰った試作品なの。じゃあね」
「はい」
「また、あとで」
要君と先輩は、生徒会室のある特別棟へと去って行った。それを見送りながら、手渡された包みを眺める。
――――――きっと、先輩に食べて欲しかったんだろうな。
そんな事を考えていると校舎の方から大きな声とそれを発していると思われる一団がこちらに近づいてくる。
その一団は、空手や剣道などの練習着を着たごつい男子の集まりだった。誰かの名前を連呼しながら走っている。
「そこの君!!」
「はい!! 何でしょうか!」
相手の大きな声と態度に思わず、背筋を伸ばし同じくらいの声で問いかえしていた。
「そのクラス章は、特別科1年の方と見受ける。君のクラスメイトである佐々木 瑠璃殿がこちらに来られなかっただろうか?」
「いえ、佐々木さんは来てませんけど」
「そうか、邪魔をしたな。お前ら行くぞ」
「おっす!!」
そう言って彼等は来た時と同じくあっという間にその場を駆け去って行った。
「何だったの?」
綺羅が首を傾げたのと同時に頭上からガサっという音が聞こえてくる。
「え?」
その音につられて上を見上げるといつの間に頭上の枝に人の足がぶらぶらと揺れているのが目に入った。
「まったく、しつこい奴らだ。驚かせてすまなかった、渡瀬」
「佐々木さん!?」
その声の持ち主の顔を見た綺羅は、驚きのあまり声を失う。そんな綺羅を見て、瑠璃は楽しげに笑った。
これが綺羅と瑠璃の初めての会話で、大切な友人との出会いだった。