兄妹喧嘩<綺羅の章>
突然、現れた輝を連れて綺羅達は、教会に来ていた。ここならば、人が寄りつかないのでゆっくりと話が出来る。
「…………何で!! 何で瑠璃ちゃんにあんなひどい事を言うの!!」
「綺羅」
室内に入るなり輝に詰め寄る綺羅を要は、彼女の両肩に後方から手を置き制止する。そして、そのまま近くの椅子に座らせた。
怒りから体を震わせる綺羅を輝は、不思議そうに見つめていた。そんな輝の表情を見て要は、溜息をつく。
「綺羅。何でそんなに怒っているの?」
「分からないのか?」
「要まで。どうしたんだよ。お前だって昔から一緒に綺羅に近づく奴らを排除してきただろう?」
「あぁ」
「今回だって今までと一緒。綺羅だって今まで僕達がしてきた事に否と言ったことはないじゃない。それなのに今回は怒るなんておかしいだろう?」
その言葉に要は何と言って説明したらいいか迷う。確かに今までの人間達との違いを輝に納得させる程の答えがない。
それでも、彼女達。特に瑠璃がどれだけ綺羅の事を好いているかなんて普段一緒に居れば分かる。何よりあのお馬鹿娘に画策とか腹黒さを求める方が無理だ。全身全霊で綺羅が大好きと体現している彼女を疑う方が難しい。
「チビは、今までとは違う。心の底から綺羅が好きで、恋人である俺でさえ傍に寄って来るのを嫌がる。………………飼い主にまとわりつく子犬?みたいな感じか…………」
「要君! 瑠璃ちゃんを動物扱いしないで! そもそもチビって呼ばないの!!」
「………………すまん」
「ふーん、要がそこまで評価してるんだ。じゃあ、今度は綺羅に聞くけど。何で彼女は僕の事を知らないの? 大切な友達だって言うなら話しててもいいはずだよね?」
「それは…………」
「つまり綺羅自身も彼女を信用していないってことだろう?」
「違う、そんなことない」
「そんなことあるよ」
そう言って自分の瞳を真っすぐと見つめる輝に綺羅は、俯く。輝の言っていることは正しい。確かに自分が双子であることも、両親が離婚していることも話したことがなかった。自分の家族がどういう人間かさえも。瑠璃は、世間の事とかに疎いから尚更。だからこそ、今の居場所が心地よかった。ただ、渡瀬綺羅というありのままの人間しか見てこないことが。
「ねぇ、綺羅。僕達が離れて3年がたったね。本当なら僕も父さんや綺羅と一緒に居るはずだった。だけど、母さんがそれを許さなかった。でも、それは表向きの理由。僕が綺羅と離れることを決めたのは、君が言ったからだ。”一人になりたい”って。一人になって自分に自信が持てるようになりたい、友達を作りたいって。今の綺羅は、そうなれたの?」