昔話<綺羅の章>
昔々あるところにとても美しい夫婦がおりました。
その夫婦は、美しいだけではなく、夫は音楽、妻は演技の才能に恵まれ、その才をいかし人々に夢と希望を与えていたのです。
そんな夫婦に待望の子供が産まれました。生まれたのは男女の双子。きらきらと輝いた人生を送って欲しいという願いの元、男の子は輝。女の子は綺羅と名付けられたのです。
同じ時に生を受けた双子。赤ん坊の頃は、そっくりでした。しかし、だんだんと歳を重ねていくに連れて違いが出てきたのです。それが少女にとって悲劇の始まり。
大きくなるに連れてみにくく太っていく自分。その反対に両親に似て美しく、才能にあふれた自分の半身である兄。
だんだんと俯くことが多くなり、人と接することが怖くなった彼女。それでも優しい父と自分を誰よりも理解してくれる兄の存在に救われていたのです。
例え、母親が自分を愛してくれていなくとも、母親から、「自分の子とは思えない」、「何でそんなことも出来ないのか」、そう言い続けられる日々を送ることが続いても。
そんな日々を過ごす中転機が訪れました。それは、彼女達が中学に入学する直前のことです。長年、自分への態度を巡って不仲になっていた両親が離婚したのは。
そして、話しあいの結果、兄は母と。自分は父と暮らすことが決まりました。兄と別れるのは悲しいけれど、離れて生活することに、内心ホッとしたのも事実。
彼女を蔑む母とは違って溺愛してくれる兄と離れることに安堵した理由。それは、自分に近づく人間を徹底的に排除しようとするから。
もちろん、最初は愛情故の行動。小さい頃から彼女を利用しようとする人間がたくさんいたから。しかし、いつの頃からか自分に好意を抱く人間すら遠ざけようとするようになったのだ。
嫌われたら悲しいからどうしてもそれを拒否することが出来なかった。だけど、今度ばかりはそれじゃあいけない。
誰ともしゃべれずにいた自分を大きな心と小さな手で包んでくれた大事な親友の為にも。
――――――戦わなきゃいけない。弱い自分と。胸をはって自分は彼女達の親友だと言えるように。