Girl's Talk 4<夏休み編>
「疲れた…………」
瑠璃は、縁側に座り溜息をつく。結局、あの後も練習を繰り返すが一向に要の棒読みは改善されなかった。
その後、夕飯の時間となり、練習はお開きとなった。今は順番で入浴をしている。その順番決めのじゃんけんで勝者となった瑠璃は、さっさと入浴をすませると風に当たる為に縁側へと来たのだった。
「もう嫌だ…………」
今も残る感触に瑠璃は、不愉快そうに浴衣の袖口で何度も擦る。すると、庭の奥からガサッという葉が鳴る音が聞こえてきた。
「誰だ!!」
瑠璃は、庭へと降り立つ。そして音がした方向に向き直ると構えを取った。
「…………こんばんは」
「何だ、礼か。驚かせるな」
現れたのは、姉の友人であり自分の家庭教師を務める榊原 礼人だった。今日は、授業がない日なのできっと姉に用事でもあったのだろう。
しかし、どこか様子がおかしい。表情も固いし、どこかよそよそしいのだ。
「礼?」
瑠璃は、礼人に近付き声をかけた。すると、礼人も自分の前まで歩いてくる。しかし、目の前に来るとそのまま黙ってしまう。
その居心地の悪さにどうしたものかと考えていると頭上から礼人の呟きが聞こえてきた。
「……………油断しました。瑠璃だってもうお年頃ですよね」
「何のことだ?」
礼人の言葉の意味が分からず、首を傾げる瑠璃。しかし、礼人と視線が合った瞬間、言葉を失い固まる。固まった、理由はただ一つ。それは、礼人の顔。そのどこか妖しく色気のある礼人の雰囲気に呑まれたから。
そんな瑠璃などおかまいなしに礼人は、彼女の顔に手を伸ばすとその頬を優しく包み、つーっとその手を下に落としていく。そしてある一点で止まるとその場所を指で優しく摩った。
最初は、意味が分からなかった瑠璃だが、その指が摩った場所がどこだか分かったとたん顔を紅潮させその手を払った。
「まさか、観ていたのか、あれを!!」
「えぇ、確か同じクラスの子でしたよね。彼は…………」
「最悪だ………………。よりにもよって礼に見られるとは」
「………………あんな奴どこがいいんだか」
礼人に練習風景を見られていたという事実に瑠璃は混乱していた。その為、礼人がその後呟いた言葉の数々を聞いておらず、次に取った礼人の行動を感知することが出来なかった。
そして、気がついた時には、その腕の中に抱きしめられており何が何だか分からない瑠璃。その次の瞬間、自分の足が地面から浮き上がった。そして、自分の顎に手がかかり、顔を上に向かされると礼人の顔が自分に真近にあることにやっと気が付いた。
「あっ………礼………!?」
礼人の突然の動きに抗議しようと口を開いたとたん、自分の唇に感じる温かさ。驚きのあまり目を見開いた瑠璃だったが、だんだんと息苦しさを感じやっと我に返った。そして、何とか逃げ出そうと暴れ、その動きに礼人の腕が緩んだその一瞬に思い切り礼人の足を思い切り蹴飛ばす。
「うっ……………」
「何をするかこの馬鹿者が!! お前みたいな変質者は、絶交だ!!」
そう叫ぶと瑠璃は、一目散にその場を駆けだした。
そして、次の日芝居を辞退するとクラスで宣言し、ひたすら逃げ続け、ついにはそれが認められたのだった。