突然の婚約話<瑠璃の章>
答案返却日から遡ること、二週間。
テスト前ということもあり、一人自室で机に向かっていた瑠璃。
教科書とノート、それと友人達から貰った瑠璃専用の解説書を手に必死に問題と格闘していたのだが、問題が解けずにいた。
「うーん、分からない。そもそも、日本人なのだから、日本語が使えればそれでいいじゃないか…………」
長々と続くアルファベットの綴りに自然と眉間にしわが寄っていく。
ついには、考えることを放棄してノートの端に落書きを始める始末。
そんな時だった、階下から自分を呼ぶ声が聞こえたのは。
「瑠璃ちゃん、お話があるから下に降りて来てちょうだい」
「はーい」
母の声に大きく返事をし、階下のリビングに向かった。部屋のソファーには、両親と仕事から帰宅したばかりの姉の姿があった。
「お帰り、お姉ちゃん」
「ただいま、瑠璃」
姉の瑠花とは、八歳離れており、この春からは、OLとしてバリバリと働いている。なので、こんな早い時間に顔を合せるのは久しぶりだった。
「話って何? 今、勉強中……」
「実はな、お前の結婚相手が決まった」
「はい!?」
口を開いた瞬間、爆弾発言をかました父の言葉に聞き返す。
すると、父の隣に座っていた母がにこにこしながら、更なる爆弾を投下する。
「良かったわね。瑠璃ちゃん。良い嫁ぎ先が決まって。お母さん、心配だったの。我が娘ながら、並みの男ではかなわない腕力と武術センスを持ってるから」
「ちょっと、待った!! だから、何がどうしてそうなる。私はまだ中学生だ!!」
「…………目を付けられた相手が悪かったわ」
このままでは、らちが明かないと判断した瑠璃は、唯一まともに情報を流してくれた姉に説明を求めることにした。
「誰が、誰に目をつけたと?」
「礼人が瑠璃に目をつけの。そして、自分の両親、父さん、母さんを丸めこんで婚約に持ち込んだらしいわ」
「はぁ? 何考えているんだ、あの性悪男は!!」
「性悪とは、心外ですね」
突如聞こえた、第三者の声に後ろを振り向くとそこには、今回の諸悪の根源と見られる、榊原 礼人の姿があった。