勝敗<瑠璃の章>
瑠璃は、礼人の肩を軽く叩き、少し腕の力を緩めさせる。そして、自分達が登ってきた梯子の方向に視線を巡らせた。
そんな彼女の行動を不思議そうに見ていた礼人だったが、その視線の先を見て何となく事態がのみこめた。
とりあえず、どうするかは瑠璃に任せることにする。そんな礼人の反応を満足げに見て頷いた瑠璃は、笑いながら言った。
「そうだ! 賭けの件なんだが。見事に私の負けだ。だから、約束通り嫁になってやる!」
「え?」
「え、じゃないだろう。自分が言い出したんだろうが」
「そうですけど。いいんですか?」
「あぁ。いいぞ。ただ、いくつか条件はあるがな」
「条件ですか?」
「私は嫁になると言ったがそれは無理だ。後継ぎがいなくなるからな。だから、お前が婿に来い!」
「いいですよ。というか最初からそうするつもりでしたが。私はとうに踊りの世界からは身を引いてますし、次男ですからね」
「よし! …………ここからはやつらに聞かせる気はないから耳を貸せ」
瑠璃は、耳元に口を寄せるとそっと礼人にささやいた。そして、「またな」と明るく手を振って駆け去って行く、その頬を紅く染めながら。
「ふふっ、やっぱり私は貴女に勝てませんね」
1人残された礼人は、嬉しそうに笑うと空を見上げた。
瑠璃が礼人に囁いた言葉。色気も何もない言葉。それでも、偽るということを嫌う彼女からの真実の言葉に満足する礼人。
―――――どうやら、私はお前が好きらしい。初恋というやつだな。ありがたく思えよ。私の最初で最後の思い人になれるんだから。
「これからが楽しみですね」