ホッとする心<瑠璃の章>
「あ、ああああ…………礼。何故こんな処に…………」
「どうしたんです。…………目が…………」
混乱する瑠璃を尻目に礼人は、スタスタと近づき隣にしゃがむと右手を瑠璃の頬に添え何かを確認するようにじっとその顔を見つめる。
一方、瑠璃はというと礼人が自分の頬に触れた瞬間、ぱっとその頬を赤らめる。そして、自分の心臓が今までにないほど、ドキドキと鼓動を打つのを感じた。
(もしかして、もしかするとこれがきぃちゃん達が言っていたことなのか?)
突然の自分の変化に戸惑い瑠璃は、顔を俯かせる。
そんないつにないしおらしい瑠璃の態度に礼人は、首を捻る。
「泣いていたのですか?」
「え?」
「こんなに目を赤くして。また、誰かに何か言われましたか?」
心配そうに自分を見つめてくる礼人を見て、彼が勘違いしていることに気がつく。
「なっ、何も言われてなどない! この学園で昔のようなことは一度もない!!」
「それならいいですけど。でも、だとしたら何故こんなに泣いたんです?」
まさか、目の前にいる礼と女性が楽しげに語らっているのを見て泣いたなど言えるはずもなく。瑠璃は、どう説明したらいいのかと途方にくれてしまう。なので、話をそらすことにする。
「…………礼こそ、何でこんな時間に学園にいるんだ?」
「家庭の事情ですよ。恥ずかしながら、兄が困った事をしでかしてくれましてね。その事態の収拾に駆り出されたのです」
「困ったこと?」
「今から話すことはオフレコですよ? この学園には兄の婚約者がいまして、兄とその方が喧嘩をしてしまったんです」
「?」
「うちの兄は、本当に困った兄なんです。踊りの才能だけが突出していて、その他についてはまったく役に立たないという困った人です。その上、私の下の弟も似たりよったりで。まぁ、兄よりはましですけどね。私が仕込みましたから色々と」
「つまり、礼は二人の世話係なんだな?」
「せっ、世話係!? …………確かに、的を得た表現かもしれません」
「ふーん、じゃああの人はお兄さんの恋人か。何だそうか…………」
本人の口から聞いた真相に、瑠璃はホッとする。何を先走ってしまったのだろうか、何だかむしょうに笑いたくなった。
「はははははっ、何だそうか! はははっ」
突然、大きな声で笑い出した瑠璃に礼は、ぎょっとする。何か変な物でも食べたのだろうかと心配になってくるのだった。