攻防戦<瑠璃の章>
「しつこいなぁ〜」
「待ちなさい。そんな処に登るなんて。落ちたらどうするんです」
「落ちないもん」
あの出会いから数日。姉の友人だという男が毎日やって来る。はっきり言ってしつこい。
「勉強なら、ママやじぃじに見てもらってるからいいの!!」
「その勉強が偏ってるから、僕が家庭教師に雇われたんです。いいから、降りて来なさい」
「い〜や〜だ〜」
瑠璃は、庭の桜の木の枝に立つと礼人にあっかんべーをした。そんな瑠璃の反応に礼人は、口の端を引きつらせる。
(聞きしにまさる問題児ですね。あの姉にこの妹ありです)
一応、友人であり生徒の姉である瑠花を思い出し、生徒である瑠璃にばれないように舌打ちをする。
瑠花はというと初日に妹を紹介してから一切この件に関わろうとせず、縁側で陽治と楽しそうにお茶をしていた。
何で自分がこんな事をする羽目になったのか、首を捻らざるを得ない。
それでも、家庭教師として雇われたからには、勉強を教えない訳にはいかないのだ。
「分かりました。君とは、勉強より先にお話をしたほうがいいみたいですね。とにかくそこから降りなさい。さもなければ、実力行使に出ますよ」
「ふん! あなたみたいに動きが鈍そうな人間に捕まるわけないもん」
「…………いいでしょう。待ってなさい」
礼人は、ワイシャツの袖を捲ると木の根元に近づく。
「なっ、あなたみたいに重い人が乗ったら折れちゃうでしょう?」
瑠璃は、今にも登ってきそうな礼人を見て慌てて近くの塀に飛び移ろうと一歩を踏み出す。すると、急いでいたせいか枝を踏み外してしまう。
「キャッ」
「危ない!!」
それを見た礼人は、落下してくる瑠璃の下に回り込みその小さな体を受け止めようと腕を伸ばした。