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ゾンビと特殊能力と日記

作者: マイケル・カスト

  五月十三日


 研究員の手帳をうばった。

 文字を書くのはいつぶりだろうか。とにかく、頭を整理するために日記を書く。

まず、食料が


 クソったれゾンビがまだ一体残ってた。

 とにかく、何もかも足りなかった。だからここに忍び込んだ。

 ……実際は、ゾンビ共を研究する地下施設で、奴らの住処でもあったわけだ。


 階段をおりてすぐ右に曲がったここの部屋に着いたとき、ゾンビに襲われた。とんでもなくでけぇデブで、すぐに壁まで追い詰められちまった。

 かなりてこずりはしたが、強烈なヘッドバッドでひるませてから俺の体ごと薬品の並ぶ机に突っ込んだ。


 だがこいつはそこまで問題じゃない。こっからが、スティーブンキングでも書かねえようなありえねえ話なんだ。

 左目に、よくわからん薬ビンのガラス片が刺さっちまった。下のまぶたから目をえぐり、上のまぶたまで貫通するような長いガラスだ。


 痛いが、抜かないともっと痛い。だから抜いた。すると、目が治りやがった。

 おまけに、壁の向こうが透けて見えやがる。俺の内臓もだ。自分の心臓を見る日が来るなんて思わなかったぞ。


 馬鹿らしいだろ。俺もそう思う。

 ……頭が落ちついてきた。アッラー? キリスト? とうの昔に神はいねえと思ったが、どうやら俺のことを見守ってくれる都合のいい守護神はいたみたいだ。

 とにかく、ここは危険だ。デブを仕留めるときに銃を使ったせいで、もっと地下の施設から腐乱死体が波になって来てやがる。

 逃げる。




  五月十四日


 この目について分かったことを書きとめる。

①物が透けて見える。

②探したいものが視界内にある場合、直感でわかる。

③視力が極端に上昇してる。

④俺の精神が狂い始めてる。


 これぐらいだ。まぁ、チートだな。

 ②に関しては最高に嫌な気分になった。かつてのパートナーの腐乱死体を見ちまったからな。クソが。

 ……とにかく、最高に最悪だが、便利なものに変わりはない。


 食料ってのは探せばあるもんで、乾パンを見つけた。もっとも、この目がなきゃ絶対に見つからなかったろうがな。




  五月十五日

 

 豆の缶を見つけた。

 まずい。




  五月十六日


 三日坊主の俺が四日目をかくってことは、ハッピーなことがあったってことだ!

 ハムの缶詰を見つけた。乾パンに挟んでサンドイッチにする。


 パンが硬すぎて歯茎をケガした。柔らかいパンが欲しい。




  五月十七日


 ぶっつぶれたシェルター街を見つけた。

 ゾンビが300はいたが、一か所に集めてまとめて焼いた。ガソリンはこんなことに使うもんじゃねえ。

 銃弾を見つけたんで廃墟を登ってると、ただの死体にでくわした。どうやらこの目は探しているもん以外には反応しないらしい。


 女だった。死体に反応するほど暇じゃないが、胸ポケットをあさると日記が出てきやがった。こいつも日記か? 日記がゾンビ世界でブーム! こりゃあ急いで買い求めねえとな!


 しょうもな。ま、女の日記はどうでもいい内容だった。

 シェルター街の設立から、ゾンビが侵入してきたときの状況まで。最後は絶望したとか、そんな感じで終わってる。


 有益だったのは一つ。この目は、文字を書いたときの人間の感情まではわからんらしい。この理論で行けば、他人の感情も死体の感情も見えんだろうな。


 だから、日記の主が死んだとき、ホントーに絶望してたのかはわからん。

 もしかしたら……あぁクソ。いつからこんな妄想を書くような下らん奴になった? 俺は高卒大学中退だぞ。

 この街で今、一番学歴が高いのは俺だ。威厳を持て。




 五月十八日


 エロ本だ! 腐ってとれかけの乳じゃねえぞ!! 最高だ!!




 五月十九日


 エロ本は捨てた。銃の手入れをしてた方が時間の有効活用だ。

 



 五月二十日


 この目を見つけてから良かったことは、食料に困らないことだ。よくわからんキノコでも、食べれるか死ぬかぐらいは判別できるし、世界のどこかにあるキノコ図鑑を盗み見て調べることもできる。

 あとは歌を歌えるぐらいか。近くにゾンビがいるかどうかもわかるからな。大声で歌っても大丈夫ってわかるのは、気が楽だ。


 こういう今更なことを書くってのは、どういうことかわかるか? 書くネタがねえんだよ。

 ま、小石にけつまずいたってのはあるが、そんなんじゃ日記には書けんだろ。俺の注意力が散漫だっただけだからな。









 九月五日


 車を見つけて、ドライブし始めてから二ヶ月。

 なごりおしいが、このポンコツともお別れだ。まだ少し遠いが、町の出口に結構な数の盗賊どもが待ち構えてる。

 人とやりあうつもりはない。ゾンビ相手はともかく、銃を持った奴は少しうっとおしいからな。




 九月六日


 小さな女の子と女性の親子を撃ち殺した。多分、盗賊どもに捕まってたんだろう。

 ……どんな待遇だったかはしらんが、二人そろって殺してくれと願うほどだ。よくはない。

 小説とかなら、嘔吐したり涙が出たり手が震えたりするが、特に何も感じない。

 

 ゾンビどもを殺しすぎたからか? 一応生きた人間を殺すのは初めてだったんだけどな。




 九月七日


 クソ猫だ。俺の食い物を分けてやると、すごいなついた。

 タンパク質にしてやろうかと思ったりもしたが、食う価値もないほど痩せてる。

 しかしこのクソ猫、かなり臭


 ページを破きやがった! そのくせ、俺の寝床の上に陣取ってやがる。

 枕にしてやる、このクソ猫。俺の頭はのうみそパンパンだからな。




 九月八日


 クソ猫が着いてくる。……が、悪いことばかりじゃない。

 小さな隙間に落ちて取れない銃弾や食料を持ってくる。なかなか使える奴だ。

 問題は俺の食うものが少なくなることだ。




 九月九日


 豆の缶を捨てた! なんてハイセンスな奴だ!!




 九月十日


 クソ猫をいつもクソ猫と呼んでいるが、そろそろ名前を付けるべきかもしれない。

 次の街に、ペットにつける名前を網羅した本があるのを見つけた。運勢なんかを考慮して、いい名前をつけられるらしい。


 中身を見ることもできるがまだ見ない。次の街でじっくり決めることにする。

 そう大きなもんじゃないが、目標ができたな。とりあえず頭にハイパーかスーパーをつけることは確実


 またページを破きやがった。文字がわかってるんじゃねーのかこいつ? 何を考えてるか全くわからん。




 九月十一日


 殺す。




 九月十二日

 

 58人殺した。弾はもう一発しか残っていない。


 俺が関わったもんはいつも死んじまう。あのクソ猫もだ。

 なんでだ?

 もう疲れてきた。このクソどもの車を奪って次の街へ行く。









 十一月八日


 かつてこの国で一番治安が悪いといわれた街に来た。

 今はどこもここ以上に危ない。




 十一月九日


 ゾンビが多い。今日でもう15は処理した。




 十一月十日


 怖い。何も感じ始めなくなってきてるのが怖い。

 昔ならゾンビ1体と会っただけでもビビってたのに、今はもう100体と会ったって何も思わない。初めて人を殺した時から、前兆が出始めてたんだ。

 今の恐怖も、きっともうすぐ消える。怖い。


 この目を手に入れたときからだ。段々と感情が消え始めてる。

 感情を出せるのは、もう日記に書いてる文字の中だけだ。それももう難しい。


 誰か助けてくれ。生きてるのに化け物になるのは辛い。




 十一月十一日


 ゲームセンターを見つけた。懐かしいゲーム機があった。

 ジェネレーションを何台か使って、店の電気をすべて復旧させた。

 昔はあんなに楽しかったゲームなのに、今は何とも思わない。


 しばらくは、このゲームセンターにいようと思う。もしかしたら、電気に釣られて人が来るかもしれない。




 十一月十二日


 ゾンビが3体来店した。残念ながら入り口で帰ってもらった。

 ゲーム機をずっと弄っていたが、何も思わない。

 電気は通ってる。中のキャラも動いてる。なのに、俺は何も思わない。




 十一月十三日


 ゾンビが2体来た。あと何日かでここを離れる。

 ……今気づいたが、ここにはキッチンもあるらしい。明日、久しぶりに調理してみようと思う。




 十一月十四日


 最高だ!

 今日は人が来た!! しかも美人な女性だ!!

 人生で一番楽しいひだ!! たのしい! 楽しい! ゲームをするのが楽しくてしかたがない!!

 最高だ!!!




 十一月十五日


 最悪だ。

 ここが治安の悪い街ということを忘れていた。キッチンに置かれていた調味料の中に、売買用のドラッグが混じっているのに気が付かなかった。目に頼りすぎて注意力が落ちていたんだ。

 昨日遊んだと思っていた女性は、四肢をしばったゾンビだった。


 ……首筋に、噛まれた跡がある。

 クソ。




 十一月十六日


 運がよかった。ゲームセンターから三十キロも離れていない場所に、ワクチンの置いてある研究所があった。

 発熱に加えて吐き気もする、体もだるい。研究所はゾンビの巣だ。ワクチンは所内の一番奥。

 神様との運比べだ。



 十一月十七日


 信じられない。研究所の外で日記を再び開けているのが夢のようだ。

 だが、うれしくはない。怖くもない。何も感じない。


 このまま何も感じずに生きるのか、まだ日記で感情を表せる状態で死ぬべきか。

 いや、もう決めてるんだ。どんな状況でも、銃弾を一発だけ残していたときから。



 ……俺の日記をもし見つけて、ここまで読んだ奴がいたら。

 ここから東に一直線に向かうと、この国で一番でかいシェルター街がある。数万人規模の、そうそう崩れることはないだろうでかい奴だ。

 ワクチンはカバンの中に入れた。持って行ってくれ。



 以前、日記の最後に「絶望した。」とか書いてる奴がいたが……。

 案外死ぬ前ってのは、何にも思わないもんだ。ただ、ゾンビや完全な化け物になる前に死ねて、いいとは思ってるがな。この世を恨む気持ちはない。




 じゃあな。






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― 新着の感想 ―
[一言] エッセイ「なまこが紹介する、『お気に入り短編集』」の紹介でお邪魔しました。 やはりこういう日記形式のお話はイイですね! 日記に書かれていない部分も、何となく想像出来るところが素晴らしいです!…
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