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最強剣士カザフさん、のんびり冒険者生活  作者: 四季
第一章 冒険者生活
6/50

六話「カザフさん、具材集める」

 太く長い剣を振り回し戦うパワーファイター系冒険者、カザフ。子どもにゴリラというあだ名をつけられそうな肉体を持つ彼は、今、ノココノの森にいる。


 ノココノの森は様々な珍しいキノコを採取できることで有名だ。

 そこに生えているキノコを食べて命を落とす者が年に数百万人いるそうなので、一般人からは少々恐れられている森。しかし、物好きな冒険者たちは、よくその森に入っては散策をしている。


 背の高い木が多く生えており、空も滅多に見えないような、薄暗い森。若干不気味な空気が漂っているが、カザフはちっとも気にしていない。


 ちなみに、なぜカザフがここに来たかというと、先日受けたばかりの依頼の内容と関係がある。


 依頼主はお婆さんだった。


 骨と皮しかないようなそのお婆さんは、昔、夫と共に辺境の村に住んでいたらしい。だが十年ほど前、突如なだれ込んできた魔物に村を壊滅させられ、以降都会に出てきたそうだ。愛していた夫は十年前の魔物襲撃時に彼女を庇って亡くなり、それから彼女はずっと一人で生きてきたらしい。


 そんなお婆さんの依頼は、ノココノの森に生息する小型魔物であるキノッコを久々に食べたいというもので。しかし、提示している報酬が少ないため、誰もその依頼を受けようとはしなかったらしく。結果、話がカザフに回ってきたのだ。


「キノッコ五匹……ちゃんと集められるかな……」



 ◆



 不安を胸に抱きつつノココノの森に入っていったカザフだったが、キノッコはわりとたくさん生息しており、頻繁に遭遇することができた。

 キノッコ自体さほど強い魔物ではないし、動きも素早くはない。だから、カザフほどの冒険者ならすぐに仕留められるような魔物である。


 だが、問題が一つ。


 カザフが倒そうとしたキノッコを、他の冒険者が先に倒してしまうのである。


 それほど強くない冒険者たちは、経験を積むためにも、まずは弱い魔物を倒そうとする。その対象となりがちなのがキノッコなのだ。つまり、キノッコは冒険者にかなり狙われがちなのである。


 昼中ノココノの森を歩き回ったカザフだったが、出会ったキノッコはほとんど他の冒険者に倒されてしまい、結局ほとんど手に入れることができなかった。


 そこでカザフは、冒険者が減る夜まで、森の中で時間を潰すことにした。


 キノッコ狩りは一旦諦め、別の用事で暇つぶしをする。


 例えば、ノココノの森では、料理の香りづけに使える葉を何種類も採取することができる。

 すぅっとミントのような香りがするミトントン。ふんわり甘い匂いのマイマイ。そして、レモンのような酸味ある芳香が個性的なレモネーバデール。


 それらの採取は依頼とはまったくもって無関係なもの。

 料理に使う時に欲しいから、と、カザフが個人的に摘んだだけだ。


 そして、やがて日は落ちる。


 昼間は比較的大人しい魔物が多いノココノの森。しかし夜間はまた少し違う。ターゲットであるキノッコは夜もちょこちょこ活動しているが、それ以外の凶悪な魔物も活動を始めるのだ。彼らは夜行性である。


 普通の冒険者なら、日が沈む頃には森を出ていく。そうしなければ危険だからだ。

 しかし、カザフの場合は違う。


 彼ほどの実力を持つ者ならば、夜行性の危険な魔物とも十分に渡り合える——彼自身それを自覚しているから、夜の森を歩くことを恐れないのだ。


 結果、キノッコの確保は一時間程度で終了した。



 ◆



「おぉ……こんなに早く……ありがとうねぇ……」


 翌日カザフがキノッコを網に入れて持っていくと、しわだらけで腰の曲がったお婆さんは、涙を流しながら礼を言った。


「若い頃はキノッコ鍋をよく食べてねぇ……それが凄く良い思い出だったんだよ……」

「キノッコ鍋、楽しんで下さい」

「ありがとうねぇ……」


 依頼主のお婆さんはカザフに少しばかりのお金を手渡す。

 これにて、今回の依頼は終了。


「親切なお前さん、名前は何て言ったかねぇ……」

「カザフ・フロティーです」


 いきなりの問いにも怯まず、カザフは笑顔で答えた。


「そうかい……良い名前だねぇ……」

「ありがとうございます」

「そうだ。もし良かったら……お前さんもキノッコ鍋を一緒に食べないかのぅ……?」


 カザフはお婆さんから急に食事を誘われてしまった。


 彼はキノッコ鍋を食べたことがない。だから、それが美味しいのかそうでないのか、少しも知らない。それだけに興味があった。彼は食い意地が張っている方ではないが、未知のものというのは、ただ未知なだけで気になってしまうものである。


 だから、カザフは頷いた。


「ご一緒します」

「そう言ってくれると嬉しいねぇ……」


 こうしてカザフは、依頼主のお婆さんと、キノッコ鍋を食べることになったのだった。

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