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最強剣士カザフさん、のんびり冒険者生活  作者: 四季
第五章 村

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四十九話「カザフさん、夢の中」

 熟睡しているカザフはちっとも起きそうにないから、ナナは一人でひたすら接客に勤しんだ。


 正直なところを言うなら、ナナは、接客より作る方が好きである。明るい雰囲気をもった少女だから接客が極めて下手ということはないけれど、本当は、黙々とアクセサリーを作っている方が気楽で良いのだ。


 だが、手作りアクセサリーを売って暮らしていく以上、接客をしないわけにはいかず。

 そのため、ナナは客とのやり取りも頑張っている。


 ——と、その時、入り口の扉が開いた。


「いらっしゃいませ!」


 ナナはすぐに挨拶をする。

 第一印象が大事だから。


 店に入ってきたのは、大人しそうな少女。黒縁眼鏡をかけていて、長めの黒髪は二本の三つ編みにした、真面目そうな容姿の女の子である。年齢は十代後半だろうか。

 身にまとっている紺のワンピースは長袖。しかも、脛の真ん中辺りまで丈があり、脚の露出はほとんどない。それに加え、柄がほとんどないものだから、非常に地味な仕上がりのワンピースである。


 ただ、右の丸襟には、金のピンバッジがついていた。


 ナナはそれが本物の金で作られたものだとすぐに気がついた。

 凄く大人しい人だが実はお金持ちなのかもしれない、と、ナナは少し思ったりする。


「お邪魔します」


 いかにも真面目、というような外見をした彼女は、顔を微かに俯けながら、聞き取れないような声で挨拶する。そして、店の奥へと進んでくる。


 が、途中で足を止めた。


 少女は、商品を見ることのできない中途半端な位置で足を止め、気まずそうな顔でじっとしている。


 店内に入ってきておきながら、商品を見るでもナナに質問するでもなく、一カ所に停止している——そんな少女を見て不思議に思ったナナは、声をかけてみることにした。


「何かお探しですか?」


 驚かせないよう、優しく小さめの声で。

 すると、三つ編みの少女は、ほんの僅かに顎を上げた。特徴のない黒い瞳が、恐る恐るナナを見る。


「え、あ……あの……」


 少女は両手を胸の前で重ね合わせ、居づらげな表情を浮かべていた。一応何か言おうとしているようだが、速やかに言葉を紡ぐことはできず、おろおろしている。


「はい。どうかなさいましたか?」

「そ、その……男性でも使えるような……ものはありませんか?」


 大人しい彼女は、何とか言葉を口から出せた。が、まだ安心できてはいないようで。肩を寄せ、身を縮めている。


「男性でも使えるものですか! えっーと」

「あ、あの……なければないで大丈夫です……」


 少女は遠慮して言う。

 けれどナナはそれを聞かない。


「いえ! 少し考えてみます!」


 ナナは走り出すと止まらないタイプだ。やる気がある時はとことん色々やってしまうのが、彼女の性質なのである。


 生まれ持った性質は変えようがない。

 それを上手く活かすしかないのだ。


「少し待っていていただけますか?」

「は、はい。その……ありがとうございます」


 少女は軽く頭を下げる。

 その後、ナナは、男性にも使えそうなものを探し始めた。



 ◆



 それから二十分ほどが経過。

 ナナは三つ編みの少女のところへ戻る。


 その手には、黒いお盆。正方形のお盆の上には、いくつかの男性でも使えそうなアクセサリーが乗っている。


 いつもナナが作っているアクセサリーは、女性向けに製作しているものだ。アクセサリーを買うのは女性のことが多いから、である。


 事実、ナナのアクセサリー屋に男性がやって来たことは、カザフを入れずだと一二回ほどしかない。

 それゆえ、男性でも身につけられそうなものは、数えるほどしかなかった。ちなみに、ほとんど、カザフが魔物を倒して持ってきた素材を使っているものだ。


「このようなものはいかがでしょうか?」


 ナナはお盆を少女に見せながら、明るい表情で尋ねる。


「えっと……あの、これは……?」


 奇妙なアクセサリーがいくつも乗っているお盆を見て、三つ編みの少女は戸惑ったような顔をした。


「こちらは、ジェリジェリーという魔物の核を使用したブレスレットになります。そしてこちらは、先ほどと同じジェリジェリーの核を使ったものですが色が少し違っていてですね。あ、ちなみにこちらは、ブレスレットではなくピアスです」


 ナナは自分の作品について語るのが好きだ。

 日頃は引かれそうだから黙っているのだが、いざという時には凄い勢いで喋ってしまう。


「す、凄いですね……!」


 それまでずっと気まずそうな顔をしていた少女だが、ナナの説明を聞いて感心したような声をあげた。


「こちらはハルマチクサ柄ベルト。そして最後のこちらは、タイ・ガーという魚類魔物の牙を使った厳つい系の指輪です」

「い、色々あって……その、凄いんですね……」


 少女の表情は数分前よりずっと明るいものに変わっている。

 数分に過ぎないのに、大きな変化があった。


 ——直後。


「すべて買います」


 若干下がってしまっていた黒縁眼鏡を指でくいと正しい位置に戻し、少女は言った。


「……え」


 ナナが紹介した四品は、どれもそこそこの値段のものだ。他のビーズアクセサリーなどとは価格がまったく違う。材料費があるのもあって、ビーズを使って作ったものより遥かに高い。


 だから、少女が全部買うと言ったことに、ナナは衝撃を受けた。

 すべて買うなんて、すぐには信じられなかった。


「えっと、それは一体どういう意味で……?」

「四つすべて買わせて下さい」


 少女は再び言った。


「あの……失礼ながら、四つ買うと高いですよ?」

「は、はい。それは、もちろん……もちろん、承知しております」

「本当に四つすべてで大丈夫ですか?」

「はい。どうか……お願いします」


 こうして、ナナが男性にも使えそうなものをとピックアップした四品は、すべて売れてしまったのだった。


「あ、あの……お世話に、なりました……」

「いえいえ!」

「素敵な商品に丁寧な接客……とても、とても……素晴らしかったです。いつか、きっと……お返ししますね……」


 こうして少女は去った。


 地味な容姿で大人しいのに、買い方は豪快。

 とても不思議な少女だった。

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