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最強剣士カザフさん、のんびり冒険者生活  作者: 四季
第五章 村

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四十七話「カザフさん、冒険者としての日々」

 その後、カザフはナナから紙を受け取った。

 何の変哲もない白い紙だったが、カザフはそれで、虹色糞で作った薬が入っている器に蓋をする。


 そうして、薬作りを終えた。


 時間はそこそこかかってしまったが、材料が多いわけでもないから、決して難しくはなくて。

 カザフはナナに「夢中になってごめんね」と謝ってから、床についた。


 そうして、その日は終わった。



 ◆



 以降もカザフはずっとナナと暮らした。


 もちろん、冒険者として生計を立てていくことを止めたわけではない。だから、ナナのアクセサリー屋から離れて、遠い土地へ向かうことも少なくはなかった。依頼を探して旅に出るのだ。過疎化した村にいても、依頼はなかなか来ないからである。


 そんなカザフの暮らしは、忙しいもので。

 けれど、多忙な中であっても、彼はナナのことを忘れたりはしなかった。


 ナナと離れている夜、カザフはいつも彼女の顔を思い出す。その可憐な姿と明るい笑顔を脳裏に浮かばせては、心を落ち着けるのだ。


 そうして彼は、依頼をこなして稼ぎつつ、旅に出ている期間が終わるのを待つ。

 ナナに会えるのを楽しみに、毎日を生き抜くのだ。


 一方、アクセサリー屋に残っているナナは、カザフの帰りをいつも待っていた。


 アクセサリーを作り、時折やって来る客にそれを販売しながら、カザフが戻ってくるのを楽しみに生きる。

 彼女は、家にいられない時期があるカザフを、決して責めたりはしなかった。カザフの「冒険者として生きる」人生を応援しているからである。


 ナナは冒険者ではない。魔物と戦う力もない。それゆえ、カザフの仕事を直接手伝うことはできない。

 それでも、少しは力になろうと考えて。

 カザフが帰ってきた日には、美味しい食事を作り、可愛いアクセサリーを贈ったりもしていた。



 ◆



 晴れた日。


 カザフは今、草原にいる。


 短い草だけが生えた、見晴らしのいい草原で、剣を手に大きな魔物と対峙。熊が大柄になったような魔物をじっと見つめ、攻撃するタイミングを探している。


 ——突如、カザフは動く。


「ど……りゃあぁぁぁッ!!」


 タイミング窺っていたカザフは、魔物に一気に駆け寄る。そして、猛獣のような雄叫びをあげながら、太く長い剣を豪快に振った。


 飛び散るは、魔物の涎。

 透明な粘度の高い液体が宙を舞う。

 大地を揺らすような断末魔の叫びを発し、魔物は崩れるように倒れた。倒れた衝撃によって、地面が僅かに揺れる。


「……ふぅ。あと何体だったかな」


 カザフは「最近草原に出現する凶暴な魔物を倒してほしい」という依頼を受けていて、その凶暴な魔物を狩っていっているところだ。

 今回の依頼は、普通の冒険者なら受けようとは思わないような依頼だった。魔物と戦うことには慣れていても、皆、敢えて凶暴な魔物と対峙しようとは思わないのである。今回の依頼は、受ける者がずっとおらず残っていたので、カザフが受けたのだ。


「ええと……」


 目の前の一体を倒したカザフは、上衣のポケットから一枚の紙を取り出す。黄ばんだ紙切れである。そこには、依頼の内容が丁寧な字で書かれていた。


【現在確認されているのは十匹です。なので、十匹倒して下さった方には、報酬をお渡しします】


 それを読んで依頼内容を再確認したカザフは、紙切れをポケットにしまう。


「今のが五匹目だから……今で半分だな」


 獰猛な魔物を一人で倒し続けるというのは、若干辛くもある。まともにやり合えば負けることはないと分かっていても、不安が完全に消え去るわけではないのだ。


 ただ、それでも、カザフは投げ出したりはしない。

 戦うのは一人でも、心の中にはナナがいる。いつだって記憶の中のナナが笑いかけてくれるから、カザフは孤独ではない。


「よし! もうちょっと頑張ろう!」


 カザフは改めて誓い、魔物の捜索を続けるのだった。



 ◆



 数時間後、熊に似た魔物を十体倒しきったカザフは、依頼主のところへ向かう。受けた依頼が完了した、ということを、速やかに報告せねばならないからだ。


 ちなみに、カザフが向かったのは最寄りの町の酒場である。


「依頼完了しました」

「もう完了! これは早い!」


 カザフがほんの数時間で依頼を終わらせてきたことに、依頼主の男性は驚く。


 依頼主の男性は三十代。

 外向きにはねた茶色いショートヘアとそこそこ整った中性的な顔立ちが印象的な人だ。


 襟のある白いシャツの上に、花の刺繍が施されたうぐいす色のベストを着用し、灰色と茶色を混ぜたような色みのズボンを穿いて。

 そんな地味めな服装であっても、爽やかなかっこよさがある——カザフはそう感じている。


 容姿で勝負したら勝てないかもしれない、と、カザフは思っているけれど。でも、さほど気にしていない。カザフは容姿など気にしないタイプなのだ。


「これが証拠です」

「おぉ、これは……!」

「魔物の骨の一部です。何か持ってきておいた方が良いかと」

「それは助かる! 感謝!」


 男性はそれまでより明るい顔つきになりながら、カザフが持っている魔物の骨の一部を受け取った。

 彼はそれから、傍の床に置いていたお金が入った袋を手に取り、持ち上げる。そして、カザフに差し出した。


「では報酬を!」


 カザフは、「ありがとうございます」と礼を述べながら、その袋を貰う。失礼がないように、両手で丁寧に受け取っていた。


「本当に助かった。感謝する」

「いえいえ。また機会あれば、よろしくお願いします」

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