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最強剣士カザフさん、のんびり冒険者生活  作者: 四季
第五章 村

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四十六話「カザフさん、虹色糞を混ぜる」

 カザフは虹色糞を材料とした薬を作り始めた。

 彼の右手には、色とりどりの鮮やかなそれが入った器。そして、左手にはナナから貰った白いスプーン。


「お湯、ちょっと冷ましてきました!」


 少ししてカザフのもとに現れたのは、ナナ。

 彼女はお湯で満たしたコップを大事そうに両手で持っている。


「ありがとう」

「ぬるくしておいて大丈夫なんでしたよね!」

「うん。助かったよ」


 カザフが今から作ろうとしている薬。それを作るためには、ぬるま湯がいる。熱湯では熱過ぎて、しかし普通の水は使えない。指で触れて「温かいな」と軽く思う程度のぬるま湯が必要だ。


「そこに入れたら良いですか?」


 ナナはコップを持ったままカザフの傍に寄り、尋ねた。

 それに対してカザフはさらりと答える。


「うん。でも少量でお願いしたいな」


 水分量が多くなり過ぎると、薬として使用することが難しくなってしまうのだ。


「ナナが入れて大丈夫ですか?」

「うん」

「じゃあ入れますよ。終わりの時は言って下さいっ」


 器にぬるま湯を注ぐ重要な役を担うことになったナナは、緊張した面持ちで、両手で握っているコップを徐々に傾けていく。その手は、緊張しているせいか、若干震えていた。


 コップは傾き、やがて、端から透明なものが零れ落ちる。

 粘度の低い湯は、一度零れ始めると、するするとコップから離れてゆく。


「今!」


 重力に従い上から下へと向かう湯をじっと見つめていたカザフが、突如叫んだ。

 その叫びに反応し、ナナは咄嗟に、コップの傾きを平常時の位置まで戻した。


「だ、大丈夫でしたか……?」


 一応カザフの声にきちんと反応できたナナ。だが、それでも心配がまったくないということはなかったようで、確認の意味を込めて言葉を発する。


「うん。ちょうどいいよ」

「よ、良かったですっ……」


 カザフが微笑んで返したのを目にした時、ナナはようやく安堵したように笑った。


「この後もナナがお手伝いすることはありますか?」

「ううん。もう大丈夫だよ」

「そうなんですか?」

「うん。ここからは練るだけだから」


 そう述べるカザフは幸せそうな顔つきをしている。

 大切なナナと一緒に穏やかな時間を過ごせることを、嬉しく思っているのだろう。


「じゃあこのコップは——」

「あ、ここに置いていってもらっても良いかな」


 ナナの言葉を遮り、カザフは言った。


 最後まで喋ることができなかったナナだが、それを不快に思うことはなかったようで、明るい表情で「分かりましたっ」と返事をしていた。


 それからナナは、カウンターの方へ移動する。


 カザフは、スプーンと器を手に持ちながら、虹色糞を混ぜていく。まずは切るように、それから縁を描くように、そしてまた切るように。片手でスプーンを華麗に動かし、独特の方法で混ぜる。水分が減ってきたことに気づけば、ほんの少しだけぬるま湯を垂らし、またスプーンを動かす。それをひたすら繰り返す。


 その動きは単調で、一見退屈しそうである。

 だがカザフは退屈などしておらず、真剣な表情で、器の中身をひたすら混ぜていた。


 ナナはというと、カウンターの奥の椅子に腰掛けて、近くのテーブルに置かれたビーズケースの蓋を開けている。


 カザフの方は見ない。

 真剣な彼の邪魔にならないように、と考えてのことなのだろう。


 ナナは半透明の白いビーズケースから透明な細い糸を取り出す。それから、さらに、小指の爪の半分もないくらい小さなビーズも出してきた。赤、青、黄、と、出してくるビーズの色はランダムだ。


 アクセサリー店はもう閉店している。それゆえ、人が入ってくることはない。灯りは消えていないけれど、ナナとカザフ以外の人間が現れることはない状況。


 だからこそ、二人とも好きなことができるのだ。

 来店を気にすることなく、それぞれ、今やりたいことをやることができる。



 ◆



「よし! 薬完成!」


 混ぜることを始めてから三十分ほどが経過した時、カザフは突然声をあげた。

 前触れのない大声に驚いたナナは、一瞬、ビクッと身を震わせる。が、急に放たれた大声がカザフのものだと気づくと、ホッとしたような顔でカザフの方を向く。


「完成したんですか?」


 ナナの手には作りかけのビーズアクセサリー。

 ちなみに、一個目に製作していたブレスレットは既に完成している。

 今彼女が持っているのは、二つ目だ。


「うん。できたよ」

「どのようにして保存を?」

「紙を被せておいたら大丈夫だよ。使いたい時、もし乾いていたら、ぬるま湯を足せば問題ないよ」


 カザフは丁寧に説明した。

 それを聞いたナナは、カウンター奥の椅子から立ち上がる。


「じゃあ、その器に蓋できるくらいの紙が要りますね!」

「あ、今じゃなくてもいいよ」


 カザフは遠慮がちに言うが、ナナはもう聞いていない。自身の思考のままに、紙を取りに行ってしまう。


「待ってて下さい! 持ってきますから!」


 その後ろ姿を見て、カザフは「あぁ……」と小さく漏らしてしまう。そんなに急がなくても、とでも言いたげな顔をしていた。

 ナナは行動が早い方だ。特に、カザフに何か頼まれた時には、素早く行動する。カザフとて、それ自体を悪く言う気はない。ただ、ナナがあまりに従ってくれるから、申し訳ない心境になってしまう時もあるのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ナナがあまりに従ってくれるから、申し訳ない心境になってしまう時もあるのだ。 これ、すっごいカザフさんらしいですね! 微笑ましいです。 [一言] 最近ちょっと読めていなかったので、一気…
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