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最強剣士カザフさん、のんびり冒険者生活  作者: 四季
第一章 冒険者生活
4/50

四話「カザフさん、ハルマチクサ探す」

 足を進めるたび、しゃり、と音がする。それゆえ、歩いている時はかき氷を作っているような音になる。

 カザフはその音が好きだった。

 砂利の道を歩くのとも、草の生えた道を歩くのとも違った、不思議な音。それが彼の好みにぴったりとはまっていたのだ。


 アイスロック洞窟の内部構造はそこそこ複雑。

 でも、カザフは、そんなことはまったく気にしていない。


 美しい見た目と歩くたび鳴る個性的な音が、好みに合い過ぎていて、他の部分を気にするなんてことはできない状態だったのだ。


 のんびり進んでいたカザフは、やがて、行き止まりに達する。


「行き止まり……」


 どこにも進める道がない。背後に今来た道があるだけで、袋小路のような状態の場所。


「ここが奥なのかな?」


 カザフは一人呟きながら、辺りを見回す。


 まず上を見る。天井は高いが、穴などは見当たらない。微かに青みを帯びて見える透明の氷に覆われた天井があるだけだ。

 次に左右を見る。すべて壁だ。ごつごつした岩の壁に薄く氷が張っているが、ただそれだけ。


 じっくり確認してみても、これ以上進めそうにはない。


「ここが最深部なのかな……」


 人はおらず、魔物もいないところだ。植物なんてとても生えていそうにない。ハルマチクサはこの洞窟の深いところにあるという噂だったが、見回してみてもどこにも見当たらない。


 噂は所詮噂だったのか——普通なら、そう思ったことだろう。


 でもカザフは違った。

 見回してみて発見できないくらいでは諦めなかった。


「すみませーん! ハルマチクサという植物を探しているんですけどー!」


 洞窟内には誰もいない。そう分かっていながらも、カザフは大きな声を発した。静寂に彼の声だけが響く。


「誰かいますかー?」


 返事はないが、カザフはまだ諦めない。


「すみませーん!」


 言葉を発しても、何も返ってこない。それでも彼は繰り返し声を発する。はぐれた仲間を探しているかのような声色で、言葉を発し続ける。

 だがそれからも返事はなかった。


 ——しかし数分後。


 それまでカザフの声しか響いていなかった洞窟内に、突如、可愛らしい甘い声が広がる。


『何じゃ? お主は』

「あ! 誰かいるんだね!」

『誰か、とは失礼じゃ』


 直後、カザフの目の前に一人の少女が現れた。


 カザフよりずっと小さな背の、十代前半くらいに見える少女。裾にかけて青みを帯びた白色の髪はやや外はねで、肩甲骨の辺りまで伸びていた。また、爬虫類のような黄緑の双眸は、人を遥かに超越した迫力のようなものをまとっている。眉はやや太め。そして、身につけているのは、和服をアレンジしたような青のワンピースに白いレギンス、そして素足に紺のサンダルだ。


 世界観が掴めない、不思議なファッションである。


「え! お、女の子?」


 いきなり少女が登場したことに戸惑うカザフ。


「妾はこの洞窟の守り神じゃ。そこらの女子と思うな」


 現れた少女は不満げに言う。

 どうやら、ただの女の子だと思われたくないようだ。


「まぁ……だよね。こんなところに普通の女の子がいたら不自然だしね」

「そういうことじゃ」


 それから少女はウインクする。


「で。お主の願いは何じゃ?」


 少女がいきなり放った問いに、カザフは戸惑いを隠せずにいた。

 願いを聞かれるなんて想定外だったから、どう反応すれば良いのか、すぐには分からなかったのかもしれない。


「ここまで来ることができたということは、お主、凄腕の冒険者なのじゃろう? そんなお主には、特別に、妾が願いを一つ叶えてやろう!」


 少女は妙に上から目線。

 しかしカザフは怒らない。


「え……ほ、本当に?」

「もちろんじゃ! 嘘はつかん」

「じゃあ……ハルマチクサの在り処を教えてほしいな」


 すると少女は「えっ」というような顔をする。


「それは本気か? 本当にそのようなことで良いのか?」


 少女は、直前までは自信に満ちた顔をしていたが、今は心なしか混乱しているように見える。


「うん、それが知りたいんだ」

「そうか。分かった。ハルマチクサなら妾が生やせるからな、暫し待て」


 そう言って、少女は両手を真横に伸ばす。すると、薄い氷が張った地面がポウッと白く輝き出す。待つことしばらく、白色に輝いていた部分の氷が溶け、地面が露わになってきた。そしてそこから、緑色をした植物の茎のようなものが伸びてくる。


「お、おぉぉ……」


 魔法のような不思議な現象に驚きを隠せないカザフは、無垢な子どものように目をぱちぱちさせている。


 その間も植物は伸びる。

 そして、葉が増え、蕾がつき——やがて花が咲いた。


 ハルマチクサの花弁が雪の結晶のような形をしているという噂は、間違いではなかった。カザフの目の前に現れたハルマチクサは、確かに、雪の結晶をいくつも組み合わせたような花を咲かせている。


 やがて、ハルマチクサが完全な状態まで育つと、少女は問う。


「何本じゃ?」

「二本……貰えたら嬉しいかな」

「そうか! 分かった」


 少女はハルマチクサの茎に手を伸ばすと、躊躇なくズボッと抜いた。

 そして、カザフの前まで歩いてくる。


「これで良いか?」

「えっと、これ、三本あるみたいだけど……」

「一つは妾からのサービスじゃ! お主が男前だからの」


 そう言って、少女はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

 そんな彼女にカザフは頭を下げる。


「三本もありがとう!」


 こうしてカザフは、ハルマチクサを入手できたのだった。

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