三十八話「カザフさん、嬉しく思う」
リズに意地悪なことをする女性冒険者三人組とカザフが懸命に言葉で戦っていたところ、男性係員がいきなり登場した。
彼の手には、四角い箱のようなものが握られている。
男性が言うには、その箱のようなものは術が組み込まれているものだそうだ。映像を記録することができると、彼は言う。
「何なのーぉ? いきなりそんなこと言ーちゃってぇー。あたちらなーんにもしてないしぃー」
男性係員に反抗的な態度を取るのは、三人組の中で一番背が高い女性。彼女は安定の甘ったるく嫌みっぽい口調で、男性係員に絡んでいっている。
だが、その他の二人は、男性係員の登場に恐怖を覚えているような顔つきをしていた。
「一部の冒険者から『リズ・ローゼさんが虐められているみたい』との報告を受けておりました。なので様子を見守らせていただきましたが……どうやら報告は間違いではなかったようですね」
真面目を人間にしたかのようなきっちりとした外見の男性係員は、淡々とした調子で呟く。そして、片手に四角い箱のようなものを持ったまま、もう一方の手を口元へ寄せてピィィと音を鳴らした。
すると、どこからともなく係員が現れてくる。
出現した係員は男性も女性もいるが、どちらかといえば男性の方が多い。
「問題行動が見られた冒険者三名を拘束します」
四角い箱のようなものを持った男性係員は宣言する。
それを合図に、周囲の係員たちが三人組の女性たちの身柄を拘束した。
背の高い人は「何であたちたちが!」と怒鳴りながら抵抗していたが、他の二人はすべてを諦めたような顔をしている。一番背が高い女性と、それ以外の二人の間には、大きな溝があるようだった。
三人組が消えてから、四角い箱のようなものを持っていた男性係員はリズに歩み寄る。
「海水で濡れてしまわれたのですね」
「……えぇ」
「今回は棄権なさいますか。それとも、このまま継続されますか」
男性係員からの問いに、リズは穏やかな表情で答える。
「継続します」
頭頂部から足の先まで完璧に濡れきってしまっているが、女性たちに奪われかけたナムナン真珠は返ってきた。その量は結構多い。だから、これ以上何もしなくても、それなりの結果は残せるはずだ。
「承知しました。それでは失礼致します」
「ありがとう」
酷い状態のリズだが、表情に固さはない。
「いえ。公平に大会を進行させることが、係員の仕事ですから」
「それでも……助かりました。感謝します」
こうして、厄介な三人組は去った。
リズとカザフは終了時間が来るのをのんびりと待つ。
◆
『お待たせィ! いよいよ結果発表だぜ!』
結果発表をノリノリで始めようとしているのは、妙にテンションが高いアナウンサー。開始五分前のアナウンスの時と同じ人物である。
『今回の三位は……パパラッテ・パパラくん、五十二歳ィ!』
集まっている冒険者たちが拍手する中、皆の前に用意されている段の「三位」と書かれたところに男性が上る。
パパラッテ・パパラは、頭から麻袋を被るという不気味な格好をした人だった。深く被った麻袋のせいで顔面はほぼ見えない。ナイフで切って開けたような穴から、僅かに唇が覗いているだけである。
『十二個! 凄いぜ、やるな!』
中には悔しさを抱いている者もいるだろう。しかしそれでも、冒険者たちは素直に拍手を続けている。自分が良い成績を残せず悔しいからといって、勝者を称えないなんてことはない。
『よし、次な! 二位は……ラルラ・リリーラ・ルルランさん!』
今度は二十代前半くらいの女性だ。
胸元がぴちぴちのシャツとショートパンツだけという軽装の彼女は、男性顔負けの引き締まった体つきをしていた。
『十六個! スゲー!』
ラルラは段上の「二位」と書かれた場所に立ち、爽やかな笑顔で手を振る。
一部の男性冒険者たちから人気があるらしく、「かーっこいーぜぇー!」だとか「やるなラルラ!」などという声が飛び交っていた。
『そして、第一位……リズ・ローゼ!!』
ついにその時が来た。
リズは胸を張って段の方へと歩き出す。
彼女が一番高いところへ上ると、冒険者たち——主に男性が、割れるような声を発する。
「美女来たでコリャ!!」
「やっふーやっふーやっほいほい。やっふーやっふーやっほいーる」
明るい表情になっているリズを見て、カザフはさりげなく安堵の溜め息を漏らした。
悪質行為から救うことができたし、それに加えて、優勝までさせてあげることができた。役に立てたことが嬉しくて、カザフは泣き出してしまいそうな気分だ。
「うっひょー! 美人優勝祭りやな!」
「やっふーやっふーやっほいほい。やっふーやっふーやっほいやほい。びじょびじょまつり、わっほいほい」
目立つような歓声を放っているのは男性。しかし、女性冒険者たちも、不快そうな顔はしていなかった。皆、リズが優勝したことを祝おうとしているようだった。
カザフは皆の温かさを感じる。
あの三人組は意地悪だったが、多くの女性冒険者たちが意地悪なわけではないのだと分かり、カザフはホッとすることができた。
『ええと、個数は……って、何じゃコレェッ!?』
アナウンサーの発言を聞き、どよめきが起こる。
『三十二個!! あり得ねェー!!』




