三十一話「カザフさん、完成品を鑑賞する」
地下洞窟の奥深くでついにデザートパンパンと遭遇できた、カザフとアイル。
カザフは、デザートパンパンの可愛らしさにやられ、戦いづらい心境になっていた。が、アイルに声をかけてもらったこともあり気持ちをしっかりと切り替えられて、何とか戦うことができた。
結果、デザートパンパン狩りは数分で終了した。
「よし! 終わった!」
アイルも剣で戦ってはいたが、あまり戦闘能力が高くないため、掠り傷をたくさん受けている。が、今は傷の痛みなど忘れているようで。ターゲットの魔物を倒せたことを純粋に喜んでいる。
「やったね」
一方のカザフは、倒れたデザートパンパンを少し悲しげに見つめながらも、宝玉を手早く回収している。
「倒したのは二匹か。他は逃げたみたいだな」
「うん。上手く必要な数だけ倒せたね」
カザフは宝玉を詰め込んだ袋の口を縛りながら話す。
「体は俺が貰っていいんだよな?」
「もちろん。僕が欲しいのは宝玉だけだよ」
「これでお互い用事は済んだな!」
「うん、そうだね」
カザフが欲していたのはデザートパンパンがだっこしている宝玉だ。それに対して、アイルが手に入れようとしていたのは、デザートパンパンの肉体である。
目的の部分が違っているため、幸い、取り合いにはならずに済んだ。
「じゃあ帰ろっか」
「よし!」
こうして、二人は地下洞窟を出ることに決める。
「その……カザフ。さっきはキレてごめんな」
「え? べつに気にしてないよ」
「そう言ってくれると……嬉しいぜ。助けてくれてありがとな」
「これからも、いつでも助けるよ」
◆
数日後、カザフはナナの店がある村へ戻った。
「うわぁーっ! 本当にあったんですね!」
「うん。デザートパンパンと思われる魔物が持っていた宝玉だよ」
「感動です! ありがとうございますっ!」
地下洞窟で手に入れた、赤く輝くデザートパンパンの宝玉を手渡すと、ナナは驚いた顔をしつつ歓喜。宝玉が入った袋を手に持ちながら、くるくると踊り出す。
そんな嬉しそうなナナを見ているのが、カザフは好きだった。
彼女はいつだって、心を癒やしてくれる存在だ。
「そんなに喜んでもらえるなんて思わなかったよ」
「そりゃ嬉しいですよ! レアものですもん!」
宝玉が入った袋を両手で大事そうに抱えながら、ナナは店の奥へと進んでいく。それからしばらくすると、空になった袋と小さな巾着袋を持って、彼女はカザフのところへ戻ってきた。
「デザートパンパンの宝玉二つ、確かに受け取りました! これがお礼のお金です!」
小さな巾着袋にはお金が入っていた。
「今回はいつもよりだいぶ多めにしていますよ!」
「え、いいよそんなの……」
大切な存在であるナナから多くのお金を貰う気にはなれず、カザフは困ってしまう。
せっかく多めにくれているのだから貰うべきな気もするが、まだ若い少女であるナナから多くのお金を貰うなんて悪いことな気もしてしまって。
「受け取って下さい!」
「そんな、悪いよ」
「いいんですっ。依頼主にはきちんと報酬を払う義務がありますから!」
受け取らないようにしようとするカザフだったが、ナナは払う気満々でちっとも引いてくれない。そのためカザフは、仕方なく、報酬を受け取ることにした。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
「またお願いしますねっ」
「うん。もちろん。でも、次からは報酬少なめで大丈夫だよ」
◆
カザフがデザートパンパンの宝玉をナナに届けた日から三日ほどが経過した朝。カザフがアクセサリー屋を訪ねると、白いワンピースを身にまとったナナはすぐに出てきた。
「おはようございます! カザフさん!」
ナナは大概朝から元気なタイプだ。
しかし、今日はいつもよりも元気な気がする。
「ナナちゃん、何か良いことでもあった?」
ふと思って尋ねると、ナナは明るい調子で答える。
「はい! 宝玉のアクセサリーが完成しました!」
あれから三日ほどしか経っていないにもかかわらずもう完成したのか、と、カザフは感心する。
ナナが本気でアクセサリーを作り出した時の熱量が凄まじいことは、これまでの付き合いの中で知っていた。が、三日で完成させてしまうとは驚きだ。
「おおっ……それは凄い……」
「お客様は明日取りに来てくれることになりました!」
「それは良かった」
カザフは自然と笑顔になる。
嬉しそうに語るナナが可愛くて仕方がないからだ。
「あ、そうだ! 売る前にカザフさんに見てもらいたいです!」
「え。いいの?」
「はい! カザフさんにですから!」
その後カザフはデザートパンパンの宝玉で作ったアクセサリーを見せてもらった。
一つはペンダントになっている。
やや太めの革紐に、宝玉がドンと一つ。デザートパンパンの宝玉は、アクセサリーの材料にしては大きめだが、その大きさを活かした大胆なデザインに仕上がっている。
「見て下さい、ここ!」
カザフは、大雑把に見せてもらってから、ナナの説明を聞く。
「……ん?」
「紐に蔓の模様を描いてみているんです!」
「これ、ナナちゃんが描いたの?」
確かに、革紐の部分には植物の蔓ような柄があった。
焦げ茶の紐に白い柄なので、非常に目立っている。
「はい! 乾くとぷっくりなるインクがあって、それを使って描いてみました!」
「細かくて凄いね」
「えへへ……。でも、結構時間がかかってしまいました」
「アクセントが素敵だね」
「カザフさんにそう言っていただけたら、とても嬉しいです」
そう言って、ナナはもう一つのアクセサリーをカザフの前へ出す。
そちらは腕輪だった。
それも、幅が六センチくらいはある、太めの腕輪だ。
「これも作ってみました!」
ガラスの破片のようなものが閉じ込められていて、赤く、キラキラと輝いている。しかし、宝玉らしきものはどこにも見当たらない。
「えっと……宝玉はどこに?」
「これです!」
カザフの問いに、ナナは答える——ガラスの破片のようなものを指差しながら。
「え、もしかして」
「せっかくなので、砕いてみましたっ」
「えええ!!」
ナナの言葉にカザフは衝撃を受けた。
彼の中には、宝玉を砕いて使うという発想は、微塵もなかったからだ。




