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最強剣士カザフさん、のんびり冒険者生活  作者: 四季
第三章 リトット砂漠

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二十九話「カザフさん、怒らせてしまった」

 地下洞窟で偶然出会ったカザフとアイル。同じ魔物を探しにやって来ていた二人は、デザートパンパンを引き寄せるという石をそれぞれ手に持ちながら、洞窟内を歩き回り始めた。最初は協力し合うことに乗り気でなかったアイルも、いざ探し始めてからは、真剣に周囲を見渡しながらデザートパンパンを捜索していた。


 だが、二人で歩き回っても、デザートパンパンを発見することは容易ではなく。なかなか見つからない。


「まったくよ! ここにいるなんて嘘なんじゃねぇのか!」


 デザートパンパン探しを開始してから一時間ほどが経過した時、二人は一度合流した。そこで、気が短いアイルは、そんな愚痴を漏らす。


「落ち着いて落ち着いて」


 苛立ちが最高潮に達しているアイルを、何とか宥めようと試みるカザフ。しかし、少し声をかけた程度では、アイルの苛立ちは収まらない。彼の苛立ちは、収まるどころか、大きくなっていくばかり。


「アイルくん、疲れたのなら一旦休んでもいいよ。僕はもう少し見てくるから、この辺りでゆっくりしていて」


 不機嫌なアイルに気を遣い、カザフはそんな提案をする。

 が、それは火に油を注ぐのと同義で。


「うるせぇ! 舐めんなよ!」


 そもそも苛立っていたアイルは、カザフの言葉に刺激されて激昂する。


「俺はそんなに弱くねぇよ!」

「あ、そ、そうなんだ。ごめん。悪気はないんだ」

「実力不足みたいに言いやがって!!」


 アイルは今にも噛みつきそうな顔。


「ち、違うんだ。アイルくん。僕はそんなつもりじゃ……」


 カザフはすぐに謝罪し、アイルを馬鹿にしているわけではないのだと訴える。しかし、頭に血が上ってしまっているアイルには、どんな言葉も届かない。


「あー気分わりぃ」


 アイルは不機嫌な顔のまま、洞窟の奥に向かって歩き出す。


「ちょっと待って! アイルくん、どこへ!?」

「一人になりてぇんだ!」

「あ……う、うん……ごめん」


 洞窟は奥へ行けば行くほど危険度が増す。

 この世界の定説だ。


 理由はいくつかあるが、一番の理由は、外へ出ようとした時に出入り口にたどり着きづらいということ。


 もし危険な魔物に出会ってしまったら、一刻も早く洞窟から脱出することが必要になってくる。しかし、危険な魔物と出会ってしまったのが奥であればあるほど、出入り口へはたどり着きにくくなるというものだ。


 そして、もう一つの大きな理由としては、洞窟の奥には強い魔物が多くいる可能性が高いということがある。


 なぜそういうことが多いのかはまだ明らかにされていないのだが、洞窟の深部には戦闘能力の高い魔物が生息していることが多い。それゆえ、並の冒険者が深いところまで潜ってしまうと、危機的状態に陥ることが多いのだ。


 つまり、アイルも、奥へ行き過ぎると危険な目に遭う可能性がある。


「黙っていたら大丈夫だよね……?」


 怒りで正常な思考を失っているアイルは、自ら危険へ突っ込んでいっている状態。カザフは、友がそんなことになっているのを放っておけるような質ではない。


 だから、こっそりアイルの後をつけていくことにした。



 ◆



 どのくらいの時間が経過しただろうか。

 時計のない空間だと、時間の流れがよく分からなくなってくる。


 不機嫌なアイルはもうずっと歩き続けている。それも、洞窟の奥へ続く道を。


 灯りはほとんどない。とにかく薄暗く、砂埃の匂いだけがする。アイルとそれをつけているカザフが歩いている道は、いつの間にか、砂利道になっていた。どこかまでは舗装されていた気がするが、思い出せはしない。


 カザフはそれよりも、アイルを連れ戻したかった。

 しっかりとした準備をせずにこんな奥まで入り込むのは、危険としか言い様がないから。


 でも、苛立っているアイルに声をかける勇気がなかった。


 カザフがその気になれば、無理矢理連れて帰ることだってできただろう。服でもちょこっと掴んで引っ張れば、ただの少年冒険者くらいいくらでも動かせたはずだ。


 けれどカザフがそれをしなかったのは、友の行動を腕力で捻じ曲げたくはなかったからである。

 つまり、カザフの妙な優しさが、この奇妙な状況を作り出してしまっているのだ。


 ——だが、突如アイルは足を止めた。


 何だろう? と思いつつ、カザフも足を止める。そして、壁からせり出した岩に、縮めた身を隠す。


 訪れる静寂。

 数秒後、それを破る音が聞こえてきた。


 それは何とも言えぬ不思議な音だった。足音のようにも、地鳴りのようにも、鳴き声のようにも聞こえる、謎の音。冒険者としての経験がかなり豊富なカザフにも、何の音なのか判断できない。


 ——それから十秒ほど経過して。


「う、うわぁぁっ!」


 急にアイルの叫びが響いた。


「た、た、た、助けてくれぇ! 誰かぁ!!」


 何かが起きたのだ。

 そう察したカザフは、岩の陰を出て、前へ進む。

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