二十七話「カザフさん、苦労する」
リトット族の村を出たカザフは、北へ歩く。
何もない砂ばかりの道を行くのは少々退屈だが、時折吹く突風に負けないように、一歩一歩確実に進んでいった。
すると、やがて、地下洞窟の入り口へたどり着く。
砂地に半径一メートルくらいの円形の蓋があり、その蓋を開けると地下へと続く階段が現れる、という仕組みだ。
カザフはその階段を下りていく。
ナナから頼まれた、デザートパンパンの宝玉を手にするために。
◆
砂漠の中にあるだけあって、地下洞窟へ続く階段は砂だらけ。歩くたび、じゃりじゃりと音がした。気を抜くとうっかり足を滑らせてしまいそうな階段だ。
そこを下りきると、やがて、やや広い通路に出た。
その横幅は、恐らく、十メートルはあるだろう。
ちなみに。
道がどこまで続いているかは、薄暗くて視界が悪いからよく分からない。
地下洞窟は暗い。洞窟は太陽光が入ってこないため大抵暗めなものだが、ここは特に光がなく、視界が悪かった。地下で、太陽光が完全に入ってこないからかもしれない。
ところどころにあるランプのぼんやりした明るさだけが頼りだ。
カザフは、薄暗い中でも周囲への警戒を怠らず、慎重過ぎるほど慎重に進んでいく。視界が悪いところでやみくもに突き進むのは、賢い判断とは言えないからだ。
途中、幾度か魔物に遭遇した。だが、遭遇した魔物の中に、デザートパンパンの姿はなくて。カザフはうろうろしてみるが、デザートパンパンにはどうしても会えなかった。
◆
翌日も、その次の日も、カザフは地下洞窟を探索。
その過程で、彼は、様々なものを発見した。
岩のような壁からは、いくつかの珍しい石を入手。ごつごつしているが色鮮やかな石を見たカザフは、ナナが気に入ってくれそうだと思い、何個か集めておいた。ただ、多くなると重いので、そんなにたくさんは集められないが。
また、壁と床の間には、植物もほんの少し生えていた。カザフは数本だけ採取。持って帰ってみることにした。
様々なものを手に入れられることができ、そういう意味では満足だ。
しかし、一番欲しいものがまだ手に入っていない。そのため、地下洞窟へ行くことを止められない。
早くナナのもとへ帰って、頼まれていたものを渡したい。けれども、デザートパンパン自体が見つからないので、これでは狩る狩らない以前の問題だ。
◆
その次の日。
いつも通り地下洞窟へ向かうと、人影があった。
砂漠のど真ん中にあるというのもあってか、ここでは冒険者はほとんど見かけない。数日潜っているが、今のところ一人も見かけていない状態だ。
なのに、今日は人がいる。
カザフは驚いた。
「すみませーん。少し構いませんか」
驚きつつも、カザフは声をかけてみる。
そうして対象が振り返った瞬間、さらに驚くこととなる。
「な……カザフ!?」
「えっ、アイルくん!?」
振り返るまで気づかなかったが、カザフが声をかけた人物はアイルだったのだ。
アイルは、前にいきなり勝負を仕掛けてきた、カザフより年下の若い冒険者。実力は成長途上ながら、若さゆえ勢いがある、そんな少年だ。
「どうして君がここに?」
「馬鹿にしないでくれよ、俺は仕事中だ!」
「それは分かってるよ。僕もそうだから、邪魔なんてしない。ただ、こんなところで会うなんて偶然だなーって、そう思っただけだよ」
アイルはやや喧嘩腰な口調。しかしカザフは乗せられたりしない。彼は穏やかさを保ったまま、言葉を返していた。
「俺はな! デザートパンパンを探しに来てるんだ!」
胸を張り、自慢げに述べるアイル。
「えっ! 本当に!?」
まさか同じ目的で来ていたとは夢にも思わず、カザフは驚いてしまった。
「何だよ、そんなに驚いて」
アイルはジーンズ生地のズボンのポケットに手を突っ込みながら、怪訝な顔をする。
そんな彼に、カザフは告げる。
「実は僕もなんだ!」
カザフはアイルと遭遇したことに驚いていたが、同時に予想外の再会を嬉しくも思っていた。今のアイルはカザフにとって数少ない大切な友人だからだ。
「そうなのか!? カザフもデザートパンパン狙いでここに!?」
「うん。デザートパンパンの宝玉っていうのを頼まれていたんだけど、なかなか会えなくて」
カザフはそんなことを話しながら、片手で頭を掻く仕草をし、さらに苦笑する。
「実は、俺もまだ会えていない」
「え! アイルくんも?」
「だが俺はこんなものを持ってるぜ!」
自信に満ちた表情でアイルが差し出したのは、黄金に輝く石。楕円形で、表面は滑らか。そんな、まるで樹液を固めたかのような石だった。
「それは何だい?」
「これがデザートパンパンを寄せ付けるらしい!」
「え。そんなもの、どこで手に入れたの?」
カザフは衝撃を受けた。
デザートパンパンを寄せ付ける石があるなんて、ちっとも知らなかったから。
「ここから南に行ったとこにある村で譲ってもらった!」
「リトット族の村?」
「そうだ! さすがに詳しいな!」
カザフもリトット族の村である程度調査はした。有益な情報がないかどうか尋ねてみたり、村人の噂話を聞いて回ったり、色々努力はしてみた。
だが、これといった情報は手に入らずじまい。
それだけに、アイルがデザートパンパンに関する情報を得ていたというのは、カザフにとっては驚くべきことだったのだ。
「その村なら僕も行ったよ。でも、情報はほとんど手に入らなかった。アイルくんは入手できたんだね」
驚きを露わにしつつ、カザフは述べる。
するとアイルは、勝ち誇ったように鼻の穴を広げる。
「じゃあ冒険者としては俺の方が優秀ってことだな!」
アイルは以前カザフに負けている。それも、第三者の目のあるところで、一対一の勝負に敗北した。それだけに、彼の中には「カザフに勝ちたい」という強い思いが燃えているのだろう。
だが、若干競っているアイルとは対照的に、カザフはアイルを素直に認める。
「うん。アイルくんは凄いよ」
「だろ!?」
「うん。あの村の人たちからまともな情報を聞き出せるなんて、才能だと思う」
悔しがるでも不機嫌になるでもないカザフを見て、アイルは眉をひそめる。
「……悔しくないのかよ」
カザフにはその発言の意味が理解できない。
「え? どうして?」




