二話「カザフさん、ペンダント貰う」
三日後。
カザフはナナのもとへ向かった。
「おはよう」
「あ! カザフさん!」
ナナのアクセサリー店は、客がいない時間帯が多い。
村は過疎化しており、滞在しているのはほぼ冒険者なので、そもそも人が少ないのだ。店が空いているのは、そのせい。ナナの作るアクセサリーが不評だからではない。
「ペンダントできましたよ!」
「見せて見せてー」
「待っていて下さい! 持ってきますから!」
そう言って、ナナは一旦カウンターの奥へ行く。そして、体を屈めて何やら作業し、一分も経たないうちにカザフの方へ戻ってきた。
その手には、お盆のような板。
「はい! これです!」
カザフはその板に乗っているペンダントを見た瞬間、衝撃を受けた。自身の好みにぴったりなペンダントばかりだったからである。色気ない薄茶色の板の上に並んだペンダントたちに、カザフは一瞬にして魅了された。
「か、可愛い……!」
カザフは大きな体を縮め、頬を赤らめながら、ナナが作ったペンダントたちを凝視する。
そんな彼に対し、ナナは説明を始める。
これはタマザウルスの鱗を花弁に見立てた、だとか。それはタマザウルスの爪を蜘蛛の触肢に使ってみた、だとか。
細かいこだわりを、語る、語る。
普通の客なら長過ぎる説明にうんざりしていたかもしれない。そんなことどうでもいいよ、と言っていたかもしれない。
けれど、カザフはそうではなかった。
カザフはナナの説明を熱心に聞いている。しかも、ただ真面目に聞いているだけではない。ナナから説明を受ける彼の顔は、とても楽しそうだ。
「カザフさんはどれにします?」
「そうだね……どれも可愛いから迷うなぁ」
「一つどうぞ!」
今のカザフは寂しい人から羨ましがられそうな状況にある。金髪の美少女が傍にいて、しかも親しげに話してくれているのだから、幸運と言えよう。
ただ、カザフ自身はその幸せにあまり気づいていないかもしれない。
ナナとこんな風に話すのは、彼にとっては特別なことではない。笑いそうになるくらいよくある、普通のことだ。それゆえ、幸せを手にしているという自覚はさほどないのだろう。
「じゃあ……これにしようかな」
「花のやつですね!」
「鱗の花弁がキラキラして綺麗だから、気に入ったんだ」
悩みに悩んだ果て、カザフが選んだのはタマザウルスの鱗を花弁に見立てたペンダントだった。
紐の部分はこれといった特徴のない革紐。しかし、青く輝く鱗と赤く輝く鱗が交互に並んでいて、二色の花のように仕上がっている。まるで、幻想世界で不思議な花を一輪摘んできたかのよう。
「やっぱりカザフさんは花が好きですね!」
「……そうかな?」
よく分からない、というようにゆっくり首を傾げるカザフ。
「だってカザフさん、前も、花のデザインの物を選んでいたじゃないですか!」
「そういえばそうだった……かな?」
「そうですよ!」
ナナの言い方は少々強気だ。
「ネックレスの時も、髪飾りの時も、花のデザインの物を選んでいました!」
「あ、確かにそうだね。言われていたら思い出してきたよ」
ナナは板を一旦カウンターに置くと、両手を腰に当てて、またもや頬を膨らます。
ハムスターかと思ってしまうくらいの膨らまし具合だ。
「忘れられたら寂しいです!」
「ごめんごめん」
「ごめんは一回です!」
「……本当にごめん」
カザフは反省したように肩を縮めていた。
そんな彼を見て納得したのか、ナナは話を変える。
「そうでした! この前の素材の代金、まだでしたね!」
「あ、確かにそうだね」
「今から用意してきますから、待っていて下さい」
「うん。急がなくていいよ」
ナナが代金を用意してくれている間、カザフはのんびりと店内を見て回る。
カザフは屈強そうな容姿に似合わず可愛い物が好き。それゆえ、アクセサリー店の店内を見て回るのも大好きだ。ナナが作る可愛いアクセサリーは、長時間眺めていても飽きない。
「お待たせしました!」
そうしているうちにナナが代金を持ってきた。
カザフの目の前には、平凡な人間が好きそうなものがたくさんある。お金の入った袋とか、白いワンピースの裾から見える美少女の太ももとか。
でも、カザフが一番意識を向けているのは、そういったものではなくて。
彼は陳列されているアクセサリーを見ている。
可愛いものが好きだから、代金よりも太ももよりも、手作りアクセサリーに興味があるのだ。