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十九話「カザフさん、夕食」

 カザフとナナは宿へ戻り、夕食を頼んでおく。

 すると、日が完全に沈む頃に、部屋まで夕食が運ばれてきた。


「お待たせしました」


 夕食は持ち手を持って押すとごろごろ進む台に乗せられている。それで、宿で働いている女性が部屋まで運んできてくれたのだ。


「ありがとうございます」

「どちらへお置きしましょうか」

「一人分はここのテーブルでお願いします。もう一人分はこの台の上のままで大丈夫です」


 カザフは室内のテーブルに料理を置くよう頼む。すると、運んできてくれた女性は、速やかに皿を動かし始める。それなりに立派な夕食のため、皿も多い。しかし、慣れているらしく、文句の一つも発することなく皿を移動させていっている。


 移動はあっという間に完了した。

 一人分だけがテーブルへ移動し、一人分は台の上に残っている状態だ。


「では、料理内容について説明させていただきます」



 ◆



「これ美味しいですね!」


 説明を終えて食べ始めると、ナナは嬉しそうな声を発した。

 彼女の手には、サラダの器。


「ナナちゃんは野菜が好きなんだ?」

「いえっ……野菜はそんなに好きではないです。でも、でも! この野菜は美味しいです!」


 嬉しそうに話すナナを見ていたら、カザフも楽しい気分になってきた。


「そういうことってあるよね」

「新鮮な野菜だからですかね!?」

「畑も多そうだもんね」


 言いながら、カザフはスープを飲む。

 そしてハッとする。


「美味しい!」


 客室内のテーブルは、二人分の料理を置けるほどの大きさはなくて、そのため妙な位置での食事になってしまっている。テーブルに置かれた料理はナナが食べ、台の方をカザフが、という風に。


 そのため、向かい合って食べることはできない。

 でも距離は近い。お互いの声がよく聞こえる距離だ。


「カザフさん?」

「このスープ、結構良い味をしているよ!」


 具は、葉が一枚浮かんでいるだけ。濃い茶色の液体が器を満たしている。そんなシンプルなスープなのだが、味の良さはかなり高いレベル。カザフの好みにぴったりだった。


「これですか?」


 カザフの感想を聞き、ナナはスープの器へ視線を注ぐ。


「えぇと、確か……東国風のあっさりスープでしたっけ?」

「そんな感じだったかな」


 覚えていない、と言いたいかのような、曖昧な返しをするカザフ。


「カザフさん、説明ちゃんと聞いていました!?」

「いや……ちょっと聞けていなかったかも」

「えぇっ……」


 そんな風に軽く言葉を交わしつつ、ナナはスープに手を伸ばす。そして、「具がない……」と漏らしながら、液体をスプーンですくう。


 ——そこから一気に口腔内へ。


 数秒後、ごくんと喉を上下させる。


「こ、これは……!」

「どうだった? ナナちゃん」


 カザフは問う。しかしナナはすぐには言葉を返せなかった。ただ、その瞳は輝いている。


「お、美味しい……!」

「だよね!」

「あっさり薄味で、でも深みがあるから退屈な味ではなくて……」


 スープの感想を述べるナナの頬は赤らんでいる。


「凄いです!」

「僕もそう思ったよ」

「ですね!」


 スープが美味しかった。

 ただそれだけのことなのに、カザフとナナは大盛り上がり。


 とにかく穏やかな時間だ。ここには争いも戦いもない。あるのは、食事を楽しめるという幸福だけ。


「サラダも美味しくて、スープも美味しくて、凄いですね!」

「メインは焼き物があるよ」

「お肉ですね!?」


 ナナは既にサラダを完食している。東国風スープもあっという間に飲み干した。残っているのは、パンとバター、そしてメインの肉料理だ。


「でもこれ……何のお肉でしょう?」


 ここまでは躊躇いなく次々食べてきたナナだったが、肉料理には少しばかり警戒している様子。

 というのも、青みを帯びた肉だからだ。


「青っぽいですよね。食べて大丈夫なんでしょうか?」

「僕が先に食べてみるよ」


 そう言って、カザフはナイフとフォークを持つ。そして、鉄板の上に乗っているやや青っぽい肉を、ナイフで切ってみる。


「あ! これは!」


 切ってみると、中は赤茶。それでカザフは気づいた。


「カザフさんは知っているお肉なんですか?」

「これ、ガオガオジューの肉だよ」


 カザフはさらりと言った。

 ナナは首を傾げる。


「え? が、ガオ……?」

「魔物の肉だよ」


 その瞬間、ナナは顔面に花を咲かせる。


「ついに出ましたね!」


 普通、ナナのような少女なら、魔物の肉など嫌いそうなものだ。しかし彼女は嫌がったりはしない。嫌がるどころか、興味津々。少しでも早く食べたい、というような顔だ。

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