十八話「カザフさん、アイシトール村を散策する」
カザフとナナが最初に向かったのは、可愛い雑貨などを販売する店。
ウッド調の平屋だ。
ちなみにこの店は、雑貨だけでなく、手芸用のビーズなども販売している。カザフはアイシトール村へ行くたびこの店を覗いているので、この店の商品については結構な知識がある。
「ほわーっ! 色々ある! 凄ーい!」
「アクセサリー作りに使えそうなものもあると思うよ」
「素敵ですね! 見てみます!」
今に始まったことではないが、今日のナナはかなり興奮している。見たことのないものばかりを目にして、テンションが上がっているようだ。
「あ。いらっしゃいませー。いつもありがとうございます」
店員はカザフに軽く挨拶をした。
◆
「どう? 何か買えた?」
「はい! 色々アクセサリーの材料になりそうなのを買いました!」
雑貨屋を出てからカザフがあっさり問うと、ナナは嬉しそうに答えた。その手には、手提げの形の紙袋。見た感じ、ずっしりと重みがありそうだ。
「色々なビーズ、デンデンの殻、たくさん買えましたよ!」
「デンデンの殻なんて売っていたの?」
「はい! 可愛い形ですよね。……でも、デンデンって何なんでしょう?」
嬉しそうに語るナナだが、デンデンの殻がどういったものなのかは理解できていない様子。ただ可愛らしい形だからかっただけのようだ。
「デンデンは魔物だよ」
「えっ!」
「山とかにいる、かたつむりに似た魔物。まぁ、さほど強くはないから、殻も高級ではないと思うけどね」
カザフはデンデンについて簡単に説明しておいた。
「魔物でしたか! では、いつもカザフさんが持ってきて下さる素材と似たような感じですね!」
「そうだね。大体そんな感じかな」
ちなみに、デンデンは貝の仲間。
海に生息する貝の魔物たちと、比較的近い種族だ。
それゆえ、デンデンも食事に使われる場合がある。デンデンが生息する山の麓の村などでは、刺身として食べられることもある。地域によっては馴染み深い、食用の魔物なのだ。
カザフもかつて、とある山の麓の村に立ち寄った際、デンデンづくしを口にしたことがある。
刺身だとややねっとりとした食感で、歯切れが悪い。食べる者の顎の状態によっては、噛み切ることが難しいかもしれない。ただ、味わいは悪くない。ほんのりと甘みがあって美味だ。
逆に茹でたものだと、歯切れの面では生より良くなる。食べやすくなる、という表現が相応しいかもしれない。ただ、刺身の時のような繊細な味わいが消えるので、味つけが必要となってくる印象がある。
「それに、食べられるよ」
「そうなんですか!?」
「魔物でも食べられるやつは結構いるからね」
「へぇー。いつか食べてみたいです」
魔物を食べる、なんて言ったら引かれてしまうかもしれないと、カザフは少し不安を抱いていた。でもそんなことはなくて。話に引くどころか、ナナは魔物を食べてみたいとさえ思っているような様子だ。
「食べられる魔物、デンデンの他にはどんなのがいるんですか?」
ナナはさらなる質問をする。
彼女の食べられる魔物への興味は、一般人よりだいぶ強いようだった。
「そうだね……キノッコとかかなぁ」
「キノッコ? キノコですか?」
「うん、そんな感じ。キノコの姿の魔物だよ」
「キノコの魔物とか、面白いですね!」
そんな話をしながら、二人はそれからも村を歩いた。
ワゴンで売っているアクセサリーを眺めたり、花売りから上手く逃げたり、軽食を食べられる店でお茶をしたり。それはまるで、女二人であるかのような内容だった。
けれど、可愛いものや美しいものが好きなカザフとしては、そういう散策も嫌ではない。
むしろ、楽しいくらいだ。
気の合う人と喋りながら歩いていると、一人でいる時よりずっと楽しくて。時間が過ぎるのもあっという間。
「そろそろ夕方だね。ご飯は宿に戻って食べる?」
「ナナはそれで良いですよ」
「じゃあ取り敢えず帰ろうか」
「はい!」
ナナはアクセサリー作りに使えそうなものを色々買い集めていた。カザフも気に入ったものをいくつかは購入できた。さほど広くない村を散策したにしては、大収穫だ。
「夕食、宿の方が作って下さるのですか?」
旅に慣れていないナナにとっては、すべてが未知の世界。
だが、ナナの顔に不安の色は浮かんでいない。
それは多分、頼れるカザフがいるからだろう。カザフは旅についてよく知っているから、気になることや不明点は彼に聞けば大抵分かる。そう思う心があるから、ナナは余裕を持って穏やかでいられるのだ。
「うん。頼んだらね」
「今からでも間に合います?」
「うん、大丈夫だよ。まだ夕方だし」