一話「カザフさん、魔物狩る」
「でやぁっ!」
刃だけでも三メートル。幅は少なく見積もって六十センチ。かなりの重量がありそうな剣を振り回す男が、とある洞窟に一人。
その名は、カザフ・フロティー。
身長は一八○センチ超え。浅黒く岩のようにごつごつした肌に、隆起した筋肉、それはまるでゴリラのような肉体。また、頭部は、一本一本が一センチくらいしかないような黒い髪に覆われている。雲丹のような頭。
そんな男が巨大な魔物をばったばった倒していく様は、同じ人間であっても恐ろしさを感じるような光景である。
「うぉりゃあ!」
屈強な男であるカザフは、その容姿に相応しく、冒険者をしている。
この世界——アスパルテムでの冒険者の仕事内容は、主に、洞窟の魔物を狩ること。逞しい体格と怪力を持つカザフにもってこいの仕事だ。
カザフは親の顔を知らない。この世に誕生したのだから父親も母親もいたのだろうが、顔を見た記憶は少しもない。
物心ついた時、家族のように傍にいてくれていたのは、一人の冒険者の男性だった。カザフはその男性から冒険者として自立するための知識を教わり、冒険者として細々と活動を始め。それから既に十五年が経過している。
カザフは今、二十五歳だ。
様々なことを教えてくれた冒険者の男性は、昨年の秋に亡くなった。
それからちょうど一年が経つ。
「タマザウルスの鱗、タマサルウスの皮膚、タマザウルスの爪、ニャンニャンの耳、タマザウルスの耳垢……よし! 揃った!」
カザフは倒した魔物たちから価値ある部分を取り、持ってきていた大きめの袋に詰めていく。そして、それが完了すると、袋と剣を手にゆっくりと立ち上がる。その背中は熊のよう。
「今日はたくさん集まったなぁ」
◆
魔物たちから取った物でぱんぱんに膨らんだ袋を手にカザフが向かったのは、洞窟近くの村にある店。入り口には【アクセサリー・ナナ】と書かれた看板が置かれている。
「こんにちはー」
誰もいない店に入ってゆくカザフ。その表情は穏やかそのものだ。魔物と戦っていた時のような荒々しさは完全に消え去っている。
「素材持ってきたよー」
カザフが言うと、店の奥にあるカウンターから一人の少女がぴょこっと頭を覗かせる。
「あ! カザフさん!」
年齢は、十六、七くらいだろうか。二つに結った長い金髪とラピスのような瞳が特徴的な少女だ。
着ているのは、フリルがたくさんあしらわれたロリータ風のワンピース。ところどころに小さな水色のリボンがついているのを除けば、ほとんどが白い。天使のようなワンピースである。
「いたんだね。ナナちゃん」
カザフがゆっくり手を振りながら言うと、ナナと呼ばれた少女はカウンターから出てカザフのもとまで駆けてくる。
「いたんだね、は失礼です!」
ナナは頬を膨らませ、わざとらしく怒りを露わにする。
「ごめんごめん」
「謝る心が伝わってきません! ……でも、素材を持ってきて下さったなら水に流します」
「うん。持ってきてるよ」
——だが、カザフが素材を持ってきたのだと分かった瞬間、笑顔になる。
「では、袋をいただきます!」
「うん」
ナナは、カザフから魔物の一部が詰まった袋を受け取ると、にこにこしながらカウンターの奥へ進んでいく。
ちょうどそのタイミングでカザフは問う。
「ここ、座っていて良い?」
すると、すぐに返ってくる。
「良いですよ! バンバン座って下さい!」
「ありがとう」
許可を得たカザフは、店内にある木の椅子にちょこんと腰掛け、ナナが再びやって来るのを待つのだった。
◆
十分ほど経過して、ナナがカザフのところへやって来る。
「タマザウルスの鱗、タマサルウスの皮膚、タマザウルスの爪、ニャンニャンの耳、タマザウルスの耳垢、完璧です!」
ナナは二つに束ねた髪を揺らしながら反復横跳び。素材を入手できたことが、よほど嬉しかったのだろう。
「揃っていて良かったよ」
「これで今週もペンダントを作れます! カザフさん用も作りますね!」
カザフもナナも満面の笑み。
幸せな空気が漂っている。
「それは嬉しいな」
「どんなデザインにしようか……迷います」
「なるべく可愛くしてくれたら嬉しいな」
「もちろんです! 可愛くします!」
そう、ナナは、アクセサリーを手作りすることで生活しているのだ。そしてカザフは、その素材を集めるために、よく洞窟へ行っている。二人は友人程度の仲だが、ちょくちょく協力し合っているのだ。