眠れない夜
月がきれいだ。
静かに空にたたずむ月は、元居た世界よりも大きく見えた。
いや、間違いなく大きいだろう。
この世界ではこんなに月が大きいのかと思った。
そんな静かにたたずむ月とは正反対に勇者の心はざわついていた。
皆と一緒に居たときはなんとなく誤魔化せていた不安が、一人になるととても大きくなり勇者の心を襲った。
しばらく寝れずに、剣士のイビキだけが部屋に響き渡る。
その時、バタンという音がした。
ビクっ
っとなる勇者。
ビビりながらも、自分の部屋から廊下を覗いてみた。
長めの廊下の突き当たりに、僧侶さんらしき後ろ姿が見えた。
「どうしたんだろうか。」
という気持ちと、一人で不安でいるのも嫌だったため、ちょっと声をかけようと近づいていく。
「うっ、うっ、うっ、、、」
僧侶は声をおしころして泣いていた。
なぜ泣いているのかははっきりはわからなかったが、勇者は声をかけた。
「大丈夫か?」
「びくっ」とした僧侶だったが、すぐに涙を拭いて、明るく返してきた。
「勇者様、眠れないのですか?」
「そうそう。色々と考えちゃってさ。」
オレは本音を呟いた。
「私も、ちょっと眠れなくて。」
「そうか、だよな。この世界の常識とか、そういうのはわかんないけどさ、辛くて泣きたい時は泣いていいと思うよ。」
勇者はいった後で少し恥ずかしくなった。
恥ずかしいので顔をそらしていると、僧侶は大きく泣き出してしまった。
「嫌なこと思い出させちゃったかな。。ごめん」
勇者はチェリーなのでだいぶ困惑している。
僧侶はそのまま勇者の胸元に顔をうずめて、泣き続けた。
勇者は最初、異性に泣き付かれているこの状況を少しよこしまに捉えたが、僧侶の心中を察して、自然と腕を回して頭を撫でた。
自分もこれからの不安でいっぱいだが、この人も辛い傷を持っている。
そして、これからはオレがこの人を守っていく立場なんだと考えたら、不思議と不安は小さくなっていた。
勇者の不安が小さくなるとともに、僧侶の泣き声も次第に収まっていった。
「明日もあるし、部屋に戻ろうか?眠れそう?」
と勇者が聞くと、顔を赤らめた僧侶は小さく頷いて、
「はい。」
とだけ答え、そそくさと部屋に戻っていった。
勇者も部屋に戻り布団に入って少し僧侶のことを考えていると、寝ていたはずの剣士が言った。
「あの子を、宜しく頼むよ。」
勇者はすこし時間をあけて答える。
「はい。そのつもりです。」
さっきまでの不安は置いて来たかのように、勇者は眠りについた。