勇者は死にかけている
死にかけ状態に陥った勇者の力とは?
「音が消えた、、、」
「目も空かない。でも、真っ暗な中に倒れている気がする。ここ、どこだ?」
ドクン。ドクン。ドクン。
心臓の動きははっきりとわかった。
体が全く動かない。
暗闇の中、
覚えているのはそれだけだった。
「おいっ、おい~っ!」
大人なお姉さんの声がする。
う、うーん、うん?
聞き覚えがあるぞ。
女魔法使いの声だ。
「大丈夫ですか?おいっ!おーい!」
あー、今度は可愛い声だっ。
思わずゆっくりと目を開ける。
「めちゃくちゃタイプの子が目の前にー!」
と、口に出てしまった。
「始めまして、助けていただいた女僧侶です。戦士がもうすぐ来ますので、事情はそちらから聞いてください。私も倒れちゃってたので。」
と、照れ臭そうに笑う彼女は、あのトロルにボロボロにされつつ、犯されもしていた女僧侶だ。
勇者は、まだ彼女があの魔物に凌辱されていたことは知らない。
そんな笑顔を振り撒いてくれていた彼女の後ろのドアが開いて、剣士が入ってきた。
「勇者さんはお目覚めかな?」
「さっき目覚めました~まだ寝ぼけてそうですし、顔がデレデレしてますが大丈夫そうです。」
僧侶は非常に元気そうだ。
「勇者さんは僧侶が好みみたいよ。」
「そうか。そいつはまた良かった。
それで、体は全く問題なさそうかい?」
勇者は体を確認しながら、
「全然問題無さそうです。」
と、自分でも不思議そうに言った。
「頭打たれてからは覚えてるのかい?勇者さん」
それが全く覚えていない。
「暗いところで身動きとれなかったと思ったら、ここでした。というか、勇者ってなんですか?」
「それについては説明がいるよな。僧侶、まずお前から説明してやれ。」
「は、はい。えっと、私たち神に使える存在は、異世界から世界によって召喚された勇者の力を感じることができるんです。倒れているときに、勇者さんが戦ってるときに一瞬ものすごい力を感じました。今もとても小さいけど、注意深く観察すれば、力は感じます。」
「え、ちょっと待って。ってことは、オレは今違う世界に来てて、勇者になってるってこと?」
なんのことかさっぱりわからなかったが、魔物を見てしまってからだと少しは理解しようとも思えてきてしまう。
ん、待てよ。
「戦ったって、誰が戦ったって?」
戦士が即答した。
「勇者さんがだ。」
「えー。。。」
ここからは戦士に聞いた話だが、オレは頭を打たれた後にピクリとも動かず、一分近く無防備に倒れていた後、ものすごいエネルギーを放って起き上がり、左手でトロルを軽く触れて宙に吹き飛ばし、そのまま右手から強力なエネルギーをトロル方面に放ち、森の一部を変形させてしまったらしい。
「ここだよ。ここ。」
疑い続けていたオレに剣士が連れてきた場所は、オレが吹き飛ばしたという場所で、攻撃を放った場所から扇型に近い形で、森の木々を吹き飛ばしていた。
「と、言われても。困るなぁ。」
まだ異世界に来た実感すら連れてこられる途中の町並みを見て「異文化だな」くらいしか感じていないのに
、自分が勇者で、しかもこれをオレがしたなんてなぁ。
「とりあえず、勇者さんにはこいつを見ていて欲しかったんだ。宿に戻ったらうちのチームから話があるから、申し訳ないがまた町に戻ろうか。」
「あー、また来た道をもどるんですね。」
正直、また来た道を戻るのは億劫だが、確かに自分の中に宿っていた力の形跡は見ておいて良かったなと。
剣士と二人で町に戻りながら思った。