ずたぼろ女僧侶
女僧侶の悲鳴が聞こえ、勇者と戦士は急いで走った。そこにいた魔物と女僧侶の無事は。
勇者は走った。
勇者本人はこの状況を、コスプレをしている剣士とノーパン女魔法使いとパジャマ姿の自分三人で、なんと滑稽なんだろうと思いながら走った。
悲鳴も、女僧侶がちょっと藪からでてきた蛇かなんかに驚いて、足を滑らせて転んだ程度に考えており、その状況を妄想して「可愛らしいな」などと危機感は全くない。
そんな勇者とは真逆に、剣士と女魔法使いは深刻な表情だ。
「目撃証言があったトロルの亜種はこの辺りなんだよな?」
「ええ、ちょうどこの付近よ。かなり大きくて凶暴って話。あれだけ探しても遭遇しなかったから、問題ないと思って一人で行かせちゃったけど、もしかしてっ」
勇者は少し空気を読んだ。
二人はかなり心配そうに走っていたし、何より途中から段々距離を離されてゼーハー言っている。
「このメンバーじゃ手分けはできないわ。もう近いだろうし、魔物の気配を一旦読んで、そっちに向かうわ。」
「頼んだ!やってくれ」
魔法使いの周りに魔法の力が集まる。
「走りながらだから、ちょっと自信ないけど、この川沿いを50m程度走った先を左の森に入って、そこから直進に大きな反応はあるわ。」
勇者は完全に出遅れて、剣士たちが川沿いを曲がった付近で立ち止まってしまう。
「あの人たちすごっ。息も切らしてないよ。」
しばらくすると、剣士の
「おおー」っという勇んだ声が聞こえた。
勇者はゆっくり歩きながら森の中に入る。
しばらくして、勇者は始めてこの世界が別の世界なのだという認識を嫌でも抱かされることになった。
少し遠くで剣士と魔物が戦っている。魔物は剣士の3倍以上あり、大きな木をもち振り回している。
勇者は恐る恐る近づいていく。
森の少し広がった広場の中央が交戦の場だったので、回り込むように奥の魔法使いのもとに向かった。
奥で魔法使いが横たわる女僧侶らしき人物に、回復魔法をかけているようだった。
勇者も大丈夫かと覗きこむ。
そこには顔面に血のコブができ、何度も殴打されたであろう腫れ上がった顔に、上半身の服がむしりとられ、腹部にも何度も殴打をされたであろう後あり。
また下半身の衣服もビリビリに破られてほぼ衣服と呼べるものではなくなっていた。また、下腹部からは酷い出血もあった。
この時、勇者は何をされたのかの理解云々より、目の前の女性が殴打されているひどい現実に恐怖していた。体の震えが止まらない。
魔法使いと剣士が比較的冷静に対応しているのは、この世界に住まう戦士たちとしての覚悟あってのことだろう。それを考えれば、彼らはある意味手練れなのかもしれない。
「あ、あーーあー、うあー」
勇者は震えながらパニックになる。
その姿を見て魔法使いは落ち着けようと声をかけた。
「この子は大丈夫。息はあるし、このくらいなら回復魔法で死にはしないから、落ち着いて!」
しかし、勇者はパニックと吐き気をもよおし、トロルと戦士が交戦中の横を走り抜けようとした。
わざとか否か、トロルの振った一振りが勇者の頭に直撃する。
鈍い音が二回起きた。
一度目の後頭部の打撃。
そして、そのまま倒れて地面に頭が衝突した音。
たった一発で、勇者はあろうことか今治療を受けている女僧侶よりも生命に関わる大打撃を受けてしまった。
転移初日。
勇者はもう死にかけていた。