2日目
今日も今日とて騒がしい一日がやってきた。
朝から遠藤が何かしら語っている。
「昨日の帰りにさ、俺のタイプド直球の眼鏡っ娘いたんだわ。マジであれはやばい。ほんと、見た感じ同級位ぽかったし。あー、やっぱ女子は眼鏡っ娘に限るよな!」
こういう発言から、大体みんなの中の何かが燃え始める。
真っ先に遠藤に突っかかったのは川口だ。
「女子は眼鏡っ娘に限るだァ!? おめぇ頭湧いてんか? 今の世の中女といえばギャルだよギャル。ギャルみたいな見た目にしながら実はそこら辺の女子より女子してたらそれこそ最高だわ!」
なんで俺はこのクラスに入ってるんだろうか。
このクラスでの生活が始まって約一ヶ月。
この一ヶ月間に実に83回目となる疑問だ。
大体一日三回以上そう思うのは無理もないことだと思う。
「川口てめっ、そんなこと言いながら清純系の他校の彼女いてんのふざけんなよ! なぁにが『そこら辺の女子より女子したギャル』だ。ギャルはギャルらしくしてんのが最高なんだよ! 特に今の時代絶滅危惧種の黒ギャルが俺の好み!」
山下が川口に反論を上げている。
というか途中から自分語りになってる。
てかてか、川口に清純系彼女いるとか初耳なんだけど?
「はぁ? 何お前、俺にギャルが良いとか言っときながら自分は清純系の彼女持ちですか。はぁはぁそれはそれは羨ま死ね」
遠藤がさり気なく、訂正、モロで暴言を吐いた。
遠藤の好みは同級の読書を嗜む清純お淑やかな眼鏡っ娘だったか。
他の奴らよりは比較的現実味がある気がする。
まぁそんな遠藤にギャルが良いとか言いながら、自分は清純系彼女持ちとかそりゃあ喧嘩売ってるわな。
「しゃーねーだろ! おめぇら知らねぇからそんなこと言ってっけど、あいつ耳にピアスだけじゃなく舌ピアスやってるし結構大胆なんだぞ! 見た目清楚だけどギャルよりギャルしてるんじゃねぇかなぁ!」
おっと?
さっきまでの発言は何処へ。
「さっきと言ってること違うじゃねぇかよ。『そこら辺の女子より女子したギャル』じゃなくて『そこら辺のギャルよりギャルした清楚女子』のが好みだろお前。自分の好みもハッキリしてないくせにこのクラスにいてんなよ」
やべぇイジメみたいな発言をしだす藤田。
というかそんなこと言い出したら、平々凡々なすごく普通な男子高校生の俺もこのクラスから出ていかなきゃいけないじゃん。
…………それはそれでありでは?
「そ、それは言いすぎだろ! ただの妬みだろお前!」
川口が少し動揺しながら反抗する。
まぁ正論でしょうね。
「あぁそうだよ! そもそも『結構大胆なんだぞ』って何だよ。あぁ? 言ってみろよ!」
藤田が開き直った。
うん、でも確かに大胆ってとこは気になってた。
「そ、それは……ほら、みんなの前では……」
急にモジモジしだす川口に、クラスメイト大半の目が鋭く刺さる。
あ、川口このままだと死んじゃう。あ、やばい。みんなの目がガチだ。
と、そこで勢いよく扉が開かれる。
「朝からわぁわぁ喧しいなぁ! 何話し合ってんだ? 好みの女か?」
担任の道山だ。
因みに道山の好みは、ムチムチスパッツを履いて、夜に残業疲れでヨロヨロ歩いてるボンキュッボンなOLとかなんとか始業式後の自己紹介で言ってた気がする。
気がするだけかもしれない。多分そう。先生としてそんなこと生徒に言うとかどうかしてると思うし。多分気のせい。
「みっちー聞いてくれよ! 川口が『そこら辺の女子より女子したギャル』が好きとか言いながら『そこら辺のギャルよりギャルした清楚女子』と付き合ってるんだってよぉ! このクラスの人間としてあるまじき行為じゃねぇか?」
藤田がそんなことを道山先生に言い出した。
このクラスの人間としてあるまじき行為なのかそれは。
「それは聞き捨てならんなぁ。ホントか?」
「え、まぁ、はい。可愛いっすよ? 俺の彼女」
川口まで開き直った。開き直った? 開き直った。
なんか顔がウザい。
「ほぉ? まぁ俺の好みのムチムチ以下略OLじゃねぇみたいだし俺は許す」
「ふざけんなよぉ!」
気のせいじゃ無かった道山先生に藤田が泣すがる。
てかほんとこの人先生なの?
こんなのが先生でいいの?
あ、あくまで生徒が接しやすいように合わせてるだけか。そうだよね?
「このクラスの担任は俺だ。俺がルール。よって川口は無罪! 閉廷!」
そうなんだよね?
「っと無駄話したから少し遅れたがこれから朝のHRを始める」
道山先生の声掛けとともに、一部は川口に殺意を向けたまま、一部は普段通りに、藤田は泣きながら、自分の席に着席する。
俺はこんなクラスであと何日もつだろうか。
一ヶ月もってるの奇跡だと思えてきた。
なんで俺こんなの書いてるんだろ