第19話●ROBERIA&ZIN
「仙人がこの都市に居るって噂、知ってるか?
ロベリア?」
「簪の件でしょ?
そうね、間違いなくいるわ。迅」
静まり返った部屋で、ロベリアと迅の声が響く。
ロベリアは小柄な体型で、白髪のショートカットをしている。頭には緑色の帽子を被り、片手には、大きなルーペを持っている。
そんなロベリアに対し、迅は大柄の体型で、眉にかかる程度の黒髪をしている。
また、ロベリアと同じ緑色の帽子を被っている。
2人は会話の語尾に互いの名前を言うという、独特な癖がある。
「仙人、そいつが仙術なんて使ったら勝てないかもしれん。ロベリア」
「大丈夫よ、仙人は私達の前には姿を現さないわ。仮に姿を現したとしても、すぐ天空人が捕ま
えるわ。迅」
「それもそうだな
じゃあ、勝ち確だな。 ロベリア」
「えぇ、私の理力と知力、貴方の膨大な力があれば、仙人をも上回る事だって出来るわ。迅」
ロベリアは得意気に非現実的な事を言った。
だが、この言葉は決して間違ってはいない。
かつて彼女は、5歳でこの都市の図書館にある本を全て読破し、その圧倒的な才能に大人達は呆れたという。
迅はというと彼もまた、かつてこの都市で1番力が強いと称された事がある。龍我と同率で……
「ヤメローーー」
突然、外で悲鳴が上がった。泉の前であった。
「私達も行きましょうか。迅」
「了解だ。ロベリア」
2人は緑色のマントをスっと羽織り、部屋を颯爽と出ていった。
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「ヤメローーー」
突然、外で悲鳴が上がった。その悲鳴と同時に叶人は目を覚ました。
「何だ!?」
叶人は勢いよくベッドから起き上がった。
だが、龍我やコノハ、サクラさんの姿はなかった。
辺りを見回すと、テーブルの上には、1枚の手紙が置いてあった。
手紙には、:コノハに光泉街案内をしています:
と書かれていた。
叶人は直ぐに部屋を飛び出し、暗く長い廊下を豪快に走り抜け、雲休宿の外へ出た。
外には大勢の人が泉を中心に円を作っていて、その中には龍我とコノハとサクラさんの3人もいた。
「おーい、龍我。これは何事だ?」
「今、天空人が戦っている。ほら、あれを見てみろ!」
龍我の指差す方向には、命霄剣で戦い合う2人の男性がいた。
その勝負の結果は、分かったも同然であった。
「ドリャーー」
その威勢と共に、優勢の男性の剣が、劣勢の男性の剣を引き裂いた。勝負の行方は、完全に決した。
「待ってくれ。頼む、殺さないでくれ」
「断る! これは戦いだ」
そう言って、勝者は敗者の横腹を剣で突き刺した。
その瞬間、敗者の仙命石は神々しく光を放ちながら宙へ浮かび上がり、勝者の命霄剣へと吸収された。
逆に、敗者はそのまま地面へ落下した。
仙命石が無くなったからである。
「これが、戦い?」
叶人は掠れた声で言った。周りの人も同じように、ただ唖然としていた。
戦う、争う、殺すという概念のない白雲世界の事なので、当然のことである。
「叶人、あれ見て」
コノハの指差す方向を見てみると、光る泉の前に提示されていた文の蒼闘者人数は、499人へと変わっていた。
「本当に始まったんだな。変白の戦い
いざ目の前で人が殺されると、恐ろしいものだな」
「本当ね。
でも、蒼闘者は皆、これを覚悟して戦い
に同意したのよね。
龍我、叶人君、死なないでね 」
昨日はとても明るかったサクラさんは、少し悲しげな表情をしていた。
「おう!死んでたまるか!」
龍我は、威勢のいい声で叫んだ。
でも、叶人は確信していた。龍我が今、泣き出したいほど悲しい気持ちになっている事を。
「おい、お前達は誰だ!?」
静まり返る泉の前で、ふと誰かが叫んだ。
声のするほうを見てみると、先程の勝者が緑色のマントを羽織った2人組に剣を向けられていた。
「これから、お前を地へ落とす」
小柄な少女が、小さな声で言った。