第18話○この温泉最高!
「サクラ姉さん!?」
そこには、濃いピンク色の髪を肩まで伸ばして、首元に、銀色の十字架のアクセサリーを付けている女の子がいた。
「そうだよ。もう何年ぶりかな?
龍我、そこにいる2人は誰? 」
「叶人とコノハさんだよ。
叶人、この人は僕の姉のサクラだよ」
「あ、初めまして、叶人です」
「私はコノハと申します」
「私はサクラ
つい最近まで第3都市の本屋で働いていたんだけど、潰れちゃってね。
で、帰る場所もなくて、今はここで居候してるの
2人共宜しくね! 」
彼女は自分の頭を撫でながら、恥ずかしそうにそう言った。
龍我の姉とあってなのか、身長が叶人よりも随分高い。
そんなサクラの美貌に、叶人は目を奪われていた。
「えーーーー!!!
龍我、貴方何で剣なんて持ってるの!?
もしかして、変白の戦いに参加するとか? 」
「しーーーー
父さんにバレたら怒られるから、そんな大きな声出さないでよ」
「ごめんなさい。つい、興奮しちゃって…
だって、龍我はこの宿の跡取り息子なわけだし」
幸いなことにこの時、父さんは受付で接客をしていた為、この事はバレずに済んだ。
叶人はというと、目の前にいる仲の良い兄弟を羨ましく思い、龍我を少しばかり妬んでいた。
「ねぇ、みんな疲れてるみたいだし、露天風呂にでも入ってこようか」
「賛成!
叶人、この宿の温泉は、光る泉から水を引いているから、とても癒されるんだぜ」
「それは、楽しみだ!
今すぐ入ろう!」
叶人と龍我は、軽やかな足取りでスキップしながら、露天風呂へ向かった。
「さぁ、コノハさん
私達も入りに行きましょう!」
「あ、えーっと、私は遠慮しておきます。」
コノハには、どうしても風呂へ入る事が出来ない理由があった。
「そう。
じゃあ、私とお話しましょう!」
「はい、分かりました」
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「龍我、この温泉最高だな!」
叶人は、重い体を温泉の中に入れ、体を軽くする。
この数日間、風呂には入っていなかったため、体の汚れがみるみる落ちていくのが感じられた。
「あぁ、ここが天国のように思えてきた」
龍我は黒色の重い前髪を後ろへ流し、温泉に浸かりながら、お湯で顔をパシャパシャと洗っている。
とても気持ちよさそうだ。
「龍我、サクラさんってどんな人なの?」
「うーん、姉さんの事についてじっくり考えたこと
ないからなー。
あ、姉さんは大の読書家だよ。本が好き過ぎて、小さい頃はよく図書館から帰ってこなかった事も
あったな」
「そうなんだ」
「というか、何で姉さんの事なんて聞きたくなったんだ?」
「別になんでもないよ。ただ、少し気になっただけ」
「ふーん」
龍我は髪からポタポタと落ちてくる水滴を見つめながら、眠そうな声で返事した。
何故か今、男湯が僕と龍我の貸切状態なので、水滴の音は、静かな音の中で時計の針を刻むように、心に響いてくる
「なぁ叶人、この都市での条件覚えてるか? 」
「あぁ、蒼闘者の人数が半分以下になるってのやつ
でしょ?」
「そうだ。現人数が500人と表示されていたから、
この都市を抜けるには、少なくとも250人亡くな
る。そう考えると、緊張してこないか?」
「勿論緊張するし、不安の気持ちもある。
僕は、人を殺すなんて想像すら出来ない」
「でもさ、参加してしまった以上、何がなんでも全力で生き残ろう!」
そう言って、龍我は風呂から上がって行った。
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叶人達が温泉に浸かっている頃、部屋ではサクラとコノハが話をしていた。
「コノハさん、貴方はどうやって龍我と知り合ったの?」
「えーっと、私は元々、叶人君の家の傍に住んでいて、叶人の紹介で龍我さんと知り合いました。」
ここで嘘をつくのは、身を守るため。
完全な正当防衛!
「なるほどね。
もう1つ質問があるんだけど、貴方は参加するの?」
「何にですか?」
「変白の戦い。龍我と叶人君は剣を持っているから、参加決定だけど、コノハさんは持っていない
から、つい疑問に思っちゃって」
「勿論、私は参加しません。
たまたま、叶人と龍我さんと一緒に居ただけですよ 」
「そうなんだ
てっきり貴方も参加すると思ったわ」
その後、2人はたわいのない話などをして、次第に打ち解けて行った。
「コノハさん、仙人についてどう思う?」
「えっ」
コノハは思わず声を詰まらせてしまった。
「仙人に対する評価は、賛否両論
過去の仙人大会や、今回の変白の戦いなど、新た
な政策をバンバンつくり、それを嫌う人も少なく
はない。
でもね、私はそうは思わないんだ。
仙人は私の事を考えて、空雲都市を平和に治めて
くれている。
変な政策を打ち出すこともあるけど、本当は心優しい方だと思うの」
「私もそう思います!」
コノハは、その言葉がただただ嬉しかった。
「トン、トン」
ドアが開いて、風呂上がりの2人が帰ってきた。
「風呂どうだった?」
「もう最高!疲れが吹き飛んだよ」
「それは良かった!
あ、もうこんな時間!?
じゃあ、寝ましょうか」
サクラは部屋の灯りを消した。