第16話○★ 今、世界は変わった!
「何で馬に翼が生えているの?」
光泉街へと向かう車馬の中で、ふとコノハが問いかけた。
「そりゃ、仙術がかけられているからに決まってる
だろう」
「そうですよコノハさん。仙術をかけられてない
と、雲の上を走る事なんてできるはずがない」
「なるほど」
コノハは初めて見る、この白い翼を持つ馬をじっと見つめていた。
「コノハは仙人なのに、騎純馬の事すら分からない
んだな」
「蓬莱山の仙人は、位の高い仙人以外、空雲都市に
ついては一切分からないの。
蓬莱山と空雲都市は近くて遠い存在
決して越えることのできない1線があるの」
白い雲と等間隔に規則正しく並ぶ家を窓から眺めながら、コノハは答えた。
やがて3人は会話をやめて、全員外の風景を見ていた。
眺めても眺めても景色は変わらないが、それくらいしかする事がないくらいに暇だった。
「ヒヒーーーン」
綺純馬が突然、甲高い鳴き声を発した。
そして、一切動かなくなってしまった。
外の景色は橙黄色に染まっていたが、辺りは光泉街ではなく、何の変化もしていなかった。
「まだ光泉街に着いてないのに、どうしたんだ?」
「綺純馬よ、走ってくれ!」
龍我が必死に指示した。が、綺純馬の様子は一向に変わらなかった。
「きっと、この馬疲れてるんだわ
一旦降りて、休ませない? 」
3人は車馬から降りて、綺純馬を見た。
怪我をしたのではないかと心配していたが、傷跡などは一切なかった。
「おかしいなぁ。何で走ってくれないのだろう?
普段は途中で休むことなんて無いんだけど」
「昨日も僕達を龍我の家まで送ってくれたんだ。
相当疲れているんだよ 」
そう言って、叶人は頭を優しく撫でた。
そうして、3人は綺純馬の周辺で座りながら、回復を待った。
「あれ、何かしら?」
眠りかけていた僕と龍我に、ふとコノハは問いかけた。
コノハの指をさしている方向には、厚く巨大な黒い雲が広がっていた。
その時、目の前が黒色に覆われた。
白雲世界が一気に、真っ黒な霧に覆われた。
暖かな太陽の光が遮断されるほど濃く、前方からは、強く冷たい風が吹いてきて、その風が近くで大
きく吹き荒れた。
「コノハ、龍我、大丈夫か!? 」
「私は大丈夫」
「俺も大丈夫だ。それにしても凄く激しい風だな。体が吹き飛ばされそうだ」
嵐の様な風が、長い時間激しく、白雲世界を襲いかかる。
「何だあれは!?」
濃く黒い霧は徐々に薄くなっていき、遠くには巨大な人物、いや仙人が姿を現していた。
その仙人は2本の角を生やし、1本の大きな杖を持っていた。
また、この世のものとは思えないほど美しい服を身に纏っていた。
「と、と、と、饕餮!?」
コノハは霞んだ声で、僕の知らない言葉を言った。
コノハの言う饕餮という仙人は、信じられないような事を語りだした。
「白雲世界に住む天空人達よ。
我は蓬莱山、いやこの世界を治める者、饕餮であ
る
今日は貴方達に、大事な事を伝えなくてはいけな
い
私達、仙人の中で、ある重大な事件を抱えている
その内容を今話すと、混乱を招く恐れがあるの
で、内容には触れないでおこう
その事件を解決するには、6人の強き若者が必要と
いう事が分かった
●○●ここで1つ提案をする●○●
この空雲都市の天空人の若者の中で、互いに戦って欲しい
勿論、この提案に乗らない者は、今まで通りの生活を営む事が出来る
また、戦いに敗れた場合は勝者に仙命石を渡さなくてはならない。
つまり、死ぬという事
最後まで生き残れた者には、褒美を授けよう。
ここまでの話を踏まえて、この戦いに参加を望むものは、その場で挙手をしなさい」
突然の話に、3人は固まっていた。
何が何だか、状況が把握出来ない。だけど、とても大事な事が起きていることは実感出来た。
「叶人、どうする?」
「僕は……………………参加するよ」
優しい性格の僕が、この戦いに参加したいのには、ある理由があった。
それは、毎日の平凡でつまらない暮らしから抜け出せるから、というものだ。
今まで、何度家出をしようとした事か。
戦うという言葉の重さに叶人は気づいてはいたが、それ以上に、平凡な日常から抜け出せるという嬉しさの方が遥かに上回っていた。
「龍我はどうするんだ?」
「勿論、参加するよ。
俺とお前は心からの親友だ。
また、叶人と離れ離れになるのは悲しい。
あと、俺の筋力が役に立つかもしれん」
龍我は、自慢げに筋肉を見せてきた。
「龍我、これからも宜しくな!
ところで、コノハはどうするんだ?」
「私は天空人ではないので、戦いには参加できません。でも、透過という自分の姿を消す仙術を使えば、旅について行くことは出来ます」
「よし、じゃあ決まりだな!」
2人は、天に向かって挙手をした。
すると、2人の目の前に、透明な剣が2本落ちてきた。
「今、挙手をした参加者全員に1本ずつ剣を支給し
た。
その剣は命霄剣といい、戦いに勝った場合、敗者の仙命石がその剣に吸収される。
命霄剣は仙命石を吸収すればするほど、強力なものになる
我々は参加者同士の戦いには一切の規制をしない。自らの知恵を絞り、一生懸命戦え!
最後に、
今、世界は変わった!
残り人数が6人になるまで、白雲世界の天空人とお
互いに戦い合い、我らの袂に来い。
そして、救ってくれ。
武器は、剣1本だけだ」
そう言うと、饕餮の姿は一瞬にして消えた。
「これからこの剣で戦っていくのか」
叶人は命霄剣をじっと見つめていた。
その剣は、透明な鉄で作られたもので目を凝らさないとハッキリとした形は見えないものだった。
「とりあえず、光泉街に行こう。俺たちと同じ参加
者が沢山いるはずだ」
綺純馬はすっかり回復していて、先程の悪天候は、澄み切った青空に変わっていた。