第13話●広間に甲高く鳴り響く不気味で滑稽な笑い
「僕達と一緒に旅をしないか? 」
「え、どういうことだ? 」
突然の問いかけに龍我は驚いて、目を大きく見開いた。
「龍我は、この周辺に存在すると伝えられている青龍について研究しているんだろう?
僕達と共に旅をすれば、青龍を見ることが出来るかもしれない!」
「そうよ。龍我さんの夢が叶うかもしれないわ。」
気づくと、僕達は龍我に詰め寄り、龍我は僕達に挟まれている状態であった。
「でも、俺は父さんの跡継ぎで雲休宿の亭主にならないといけないんだ。せっかく誘ってくれたのに
すまない」
明るい声で返事を返した龍我は、どこか悲しげな表情をしていた。
そんな龍我は今、研究室を出ようとしている。
「もう空が暮れてきた。今日は2人の為に、何か料理を振る舞うよ」
その時、台所へと足を進める龍我の手を、叶人は強く引っ張った。
「おい、叶人どうした?」
「本当は宿の跡取りなんてしたくないんじゃない
か?」
「何を言うんだ、叶人。
自分で言うのもなんだが、俺は嘘はつかない男
だ。
お前だって、その事は知ってるだろう? 」
螺旋階段で叶人が龍我に対して、語りかける。
叶人の目は全てを見透かしたような、そんな冷静さを十分に放っていた。
「さっき、無理矢理明るく振舞おうとしていたよな。幼馴染の僕だから分かるんだ!」
叶人は熱意のこもった言葉を龍我に投げかける。
だが、龍我は一向に姿勢を変えない。
「叶人、それは思い込みだ。むしろ、俺は父さんの跡取りを次ぐことが出来て嬉しく思っている」
龍我は完全に叶人の意見を否定した。
だが、叶人は懲りずに何度も説得しようとする。
「僕の父さんはいつもこう言っていた。
<人生一度きりなんだから、他人に強要される
な。自分の好きなように生きなさい>
結局、父さんは仙人になるという夢を叶えられず
に亡くなった。
でもさ、父さんは父さんなりに人生を楽しめたの
かなって思うんだ。
もう一度言う。僕達と一緒に旅をしないか? 」
「じゃあ俺は、宿の亭主になって好きなように生き
る。
青龍の研究も好きな事だが、それは趣味だ」
「そうか…………」
こうして、2人の長い口論は幕を下ろした。
龍我は叶人を論破して台所へ向かって歩いていった。
「ねぇ叶人。なんであそこまで龍我さんと口論した
の? 最初から断られたわけだし」
「小さい頃、2人で約束したんだ。
一緒に仙人になろう って
その頃は、龍我とボロい木製の杖で<仙術だー>
とか言って、遊んでいた。
もう忘れてしまったのかな?」
この後、叶人とコノハは龍我にお手製の料理を振舞ってもらい、寝室までの長い廊下を歩いた。
「あんな事言って龍我、食事中ずっと無言だった
じゃないか」
「叶人に説得され続けて、疲れてしまったんじゃな
い?」
コノハは笑顔のまま、皮肉な口調でそう言う。
少しムカついた。
もうすぐで寝室に着く。嬉しそうに歩いていると、突然コノハが立ち止まり、窓を眺めた。
「なんか綺麗な星でもあったか?」
「ねぇ叶人。今、空を歩いている人見なかった?
少し背が高い感じの」
「空を歩いている人?
そんな人いるわけないだろ。今日は、朝からドタバタで疲れているんだ。きっと、寝ぼけてるんだ
よ」
「そうかしら? 確かに見えた気がするんだけどな
ぁ」
しばらくすると、2人は寝室に着いた。叶人は、初めてのベッドに、心踊らせた。
「じゃあ、お休みなさーい」
「昼間寝てたくせによく寝れるなぁ」
「昼間は気絶していただけで、寝てはいないわ。」
このコノハの発言は、屁理屈に聞こえたが、何故か説得力があるように感じられた。
(あれ、そう言えばなんであの時、コノハは気絶したんだ? そもそも、あの光の膜のような現象は、どうして起こったのだろうか?)
コノハに質問しようとしたが、既に爆睡していた。
仕方ない寝るか。
「お休みなさい」
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「さぁ、仙命石をこちらに寄越しなさい」
白く染められた白雲世界とは対照的な世界がそこにはあった。
窓からは、青い光が真っ暗な広間に差し込んでいる。
そこには多くの仙人が集まっていた。
「饕餮様、禁忌の間から大量の仙命石を持って参り
ました。これで宜しいでしょうか? 」
饕餮は小さく頷き、水晶の前にそれを置いて呪文を唱え始めた。
「時代は変わる」
不気味で滑稽な笑いが、広間に甲高く鳴り響いた。