2.半妖
「僕たちはガーディアンと言って、この世の理を守るために、天界からやってきた守護者だ。普段は人として暮らし、この世にあるべきではないものを退治している。君たちが言う幽霊、妖怪、怪物と言ったものがそれにあたるだろうか」
榛名の言葉を元の姿に戻った愛瑠が黙ったまま聞いている。
「昨日、君が昼寝をしていた公園で、妖魔と戦っていたんだ。その最中、僕が持っていた棘の実という、天界の植物を落としてしまった。この実は生物の体内に入ると寄生するから、きっとその時、君の体内に入ってしまったのだと思う。本当にすまない」
深く榛名が頭を下げ、それを見ていた愛瑠はスゥッと目を細めた。
「じゃぁ、つまり、あなたのせいで、私は怪物になりましたってことだよね?」
「怪物っていうか、半妖だけどな」
横からあっけらかんと斗真が口を挟んで、
「どっちでも同じだ!」
と、愛瑠が叫んだ。途端、ビヨンと伸びて、床を叩きつける愛瑠の腕。
「こんなになっちゃって」
腕から伸びる蔦を見て、ジワリと涙を浮かべる。
「お前があんなところで大口開けて寝てっから悪いんだよ。大体、俺たちがいなかったらお前は妖魔に殺されていたんだからな。身を挺してお前をかばったせいで、榛名は攻撃を受けて棘の実を落としたってのに。つまり、ぜーんぶ、授業をサボってあんなところで寝ていたお前が悪い。自業自得」
斗真の反撃に、愛瑠はうっと言葉を呑んで、気まずそうに横を向いた。しかし、納得いかない顔で、
「で、でも! さっきのはないでしょ?! 助けるにしたって、あんな方法……」
と頬をふくらます。
「なんだよ。あんな方法って?」
「だから、その……初めて、だったのに……」
ごもごもと言い淀んで、愛瑠はうつむいた。耳まで真っ赤になっている。
その様子に榛名が何かに気付いて、バツの悪そうな顔をした。
「ごめん。あのままだと建物が崩壊して、周囲の人間を巻き込みそうだったから、君の気を静めるために急を要したんだ。ほら、僕人間じゃないし、犬に舐められたくらいに思ってくれないかな」
「人間にしか見えないもん……」
「そう、だよね……ごめん」
気まずそうに黙りこんだ二人に、
「何が? 初めてって何のこと? 犬って?」
と、斗真が興味津々、顔を突っ込んでくる。
「もういい! で、この体どうなるの? 壊れた家を直したみたいに、魔法でどうにかできないの?」
「あれは魔法じゃなくて、妖術」
「うるさいっ!」
噛みつくように怒鳴ると、愛瑠の髪が伸びて、宙に広がった。
「お前、メデューサみたいだぞ」
感心した様子でつぶやく斗真に、愛瑠は怒りでわなわなと体を震わせる。
「斗真……」
榛名が諌めるように言って、愛瑠に向き直った。
「あれは、時間軸をずらして、数時間前の状態に戻したんだけど、棘の実は天界に属するものだから、ここの時間軸とは異なる次元にあるんだ。つまり、君を寄生される前の状態に戻しても、棘の実自体は君の中にある今の状態を保つと思う。それに、さっきは多くの人に目撃されてしまったから、あの妖術を使ったけど、人に使うと精神への影響が大きいから、本当はあまり使いたくないんだ」
「じゃぁ、他には? 治す薬とかは? 除草薬的なのないの?」
すがるように愛瑠は聞いたが、榛名は黙ったまま首を振った。
「ずっと、このまま……?」
「……ごめん。本当にごめん。元の体には戻せないけど、君のことは今後、僕が全力でサポートする。君の一生を僕が責任をもって守るから、だから許してくれ」
真摯な顔でそう言うと、榛名は深々と頭を下げた。その姿をしばらく見ていた愛瑠が、小さくため息をついた。
「君の一生を僕が責任をもって守るなんて言葉、プロポーズの時に言われたかったよ」
つぶやくように言った後、何かを決心したように前を向く。
「仕方ないね……。うん、よし! トカゲの尻尾は切れても伸びる!」
「な、何だよ、急に。気がふれた?」
気味悪そうに眉をひそめる斗真を愛瑠は忌々しげに見て、一瞬何か言いかけたが、ふいと顔を逸らせて、榛名に向き直った。
「もういいよ。この件は、これでおしまい! ほら、考えてみたら、半妖なんてカッコいいかもね」
先ほどまでの落ち込みようとは打って変わって、あっけらかんと言った彼女に、榛名は戸惑いを見せる。けれど、愛瑠はニコリと笑った。
「今更だけど、ありがとう。身を挺して妖魔から私を守ってくれたんだよね。だから、私は半妖にされたんじゃなくて、榛名から半妖としての新しい命をもらったんだって思うことにする」
笑顔で言い切った愛瑠に、榛名は息を呑んだ。
「でも……妖魔から人間を守るのは僕らの仕事だから、君を守ることは当たり前のことで、なのに守るべき君を半妖にしてしまった。それは僕の責任だ」
「いいよ。授業サボってあんなところで昼寝していたから罰が当たったんだし」
「そうそう、全部こいつの日頃の行いのせいだって」
横から斗真が口を挟んで、愛瑠がギロリと睨んだ。振り上げた愛瑠の腕がみるみる伸びて、斗真の頭をペシッと叩く。
「ね。この体、結構便利だし」
そう言ってニンマリ笑った愛瑠に、榛名は少し驚いた顔をしてから、「ありがとう」と微笑んだ。




