14.ガーディアンと人間
「こう、毎日学校終わるのが早いと、時間もてあましちゃうねー」
寝転がって漫画本を読んでいた愛瑠がつぶやき、
「だよな。漫画もそろそろ見尽くすしな」
と、斗真が返す。
「勉強すればいいじゃないか。大体、学校が早く終わるのは、テスト期間中だからだろ」
ちょうど飲み物を取りに来ていた榛名が呆れた顔で二人を見る。チラッと、榛名の顔を見た愛瑠が起き上がって不思議そうな顔をした。
「榛名はなんで勉強するの? 大学行くの? 人間界で就職するの?」
「なんでって……」
「だって、記憶を操作すればいつだって最初からそこにいた人になれるんでしょ? 行きたい大学に行けるし、なりたい職業になれるじゃん」
「そう、だけど……。自分の努力で、成果が表れるのって、やっぱりやりがいを感じるし、勉強もやってみると結構楽しいよ」
榛名の言葉に愛瑠は深くうなずいて、そして横目で斗真の顔を見た。
「なんだよ、その目」
「同じガーディアンでこうも違うかねぇ」
「うるせぇな。そういうお前はどうなんだよ」
「私? 私はもう将来のことは考えてあるし、そのための努力も怠ってないから大丈夫だよ」
「まじか?」
「うん。斗真なんて、将来のことすら考えたことないんでしょ」
愛瑠が肩をすくめる。
「バカ言うな。俺だって、なりたいものはある」
「なに?」
「ゲーマー」
「ニートか」
「そうともいう」
二人のやり取りを聞いていた榛名が、「じゃぁ、僕、勉強するから、もう行くね」と苦笑いしながら、リビングを後にした。
「お前は何になりたいの?」
「獣医」
「そっかぁ。じゃぁ、大学行くんだろ? 勉強しなくていいの?」
「斗真、私は全国模試で三位から落ちたことはない」
「まじか?」
「うん」
愛瑠の言葉に斗真はしばし考える仕草をした後、
「じゃぁ、テスト勉強する必要なんてないな。漫画読み飽きたし、ゲームでもしようぜ」
と言って笑った。
「さすがだな。斗真」
愛瑠は感心したようにうなずくと、いそいそとゲームを取り出した。
一時間後、
「はっはっはっ。この俺様に勝とうとするのが間違っている」
両脇に手を置いた斗真が、仁王立ちしていた。
「くっそぉ。もう一回!」
愛瑠が悔しげにつぶやいてスタートボタンを押す。
「何度やったって同じだよ。なんせ、俺の将来はプロのゲーマーだからな」
「黙れ。ニートが」
再び、二人の戦いが始まり、あっという間にやられそうになった愛瑠が、「ちょっと待った」と言って、リセットボタンを押そうとした。
「あっ! お前! 卑怯だぞ」
ボタンを押させまいと、斗真が愛瑠に手を伸ばす。
「今のはなし!」
愛瑠はその手を振り切って、リセットボタンを押そうと腕を伸ばした。
「ふっざけんな」
斗真が力づくで、愛瑠を押さえつける。二人は重なり合って、床に倒れた。
「いったいなぁ」
倒れた愛瑠が目を開けると、間近に斗真の顔があって、驚いて目を見開いた。同じように斗真も驚いた顔で、目を見開いている。
「ご、めん……」
そう言いながら、斗真は愛瑠を押し倒した状態のまま動こうとせず、間近にある瞳をじっと見つめた。
「斗真……痛いよ」
斗真の強い視線に耐えられなくなった愛瑠が目を逸らすと、斗真は「愛瑠……」と切なげに囁いて、彼女の頬にかかる髪を優しく耳にかけた。
ゆっくりと顔を近づける。
「斗真、取り込み中悪いけど、話があるから、ちょっといい?」
突然、後ろから声をかけられて、斗真が叱られた子供のような顔をした。
「取り込み中って分かってんなら、声かけんなよ」
「分かっていたから声かけたんだけど?」
榛名にしては珍しく少しだけ怒ったように言って、踵を返した。
「どういうつもり?」
部屋を出た途端、榛名が硬い表情で振り返る。
「どういうって?」
「ガーディアンは必要以上に人間と関わってはいけないってことくらい分かっているだろ」
責めるように言う榛名に、斗真はふてくされた表情をした。
「声、でけーよ。愛瑠に聞かれるだろ」
「ごめん……」
小さくため息をついて歩き出した榛名の後ろを、斗真が黙ったままついて行く。二階まで来たところで、
「お前だって、愛瑠とキスしたくせに」
と、その背に斗真がつぶやいた。
「それは……やむを得ない状況だったからだ。それに、あの時、僕に特別な感情があったわけじゃない」
「じゃぁ、今は?」
そう言って、斗真は上目遣いに榛名のことを見つめた。
「今も特別な感情がないって、言い切れる?」
一瞬だけ戸惑ったように榛名は黙り込み、その後、視線を落とした。
「特別な存在だということは認める。彼女を守りたいとも思っている。でもそれは、僕のせいで彼女を半妖にしてしまったからだ。お前みたいに個人的な感情は持っていない」
「そうか?」
つぶやいて、斗真は首を傾げた。
「じゃぁ、なんでそんなに苛立ってんの? らしくもない」
じっと窺うように見る斗真に、榛名は顔を背けて、
「別に、苛立ってなんかいない。ただ、ガーディアンとしての自覚を持てと言っているだけだ。じゃぁ、話はそれだけだから」
そう強い口調で言って、榛名は自分の部屋に入ってしまった。
「苛立ってんじゃん……」
閉められた部屋のドアを見ながら、斗真は肩をすくめた。




