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クラスメイトとの再会

 春樹の手紙は、俺にとって衝撃的だった。


 つぐみは、何とかして春樹と連絡を取り合うつもりらしい。もっとも、向こうからここまで多少距離があるから、すぐに意思疎通できるようになるわけではないが。

 スマホがどれだけ便利か改めて実感できるな。



 俺は裏道を歩いていた。グラウス共和国首都、都市を囲む防壁の外に位置する、そんなへき地の一つである。壊れた民家や打ち捨てられ風化した木材が散乱する、廃墟のような場所。

 パトロールの真似事をしている。


 隣で金髪を揺らしているのは一紗。俺とのデート(と、本人は思っている?)が嬉しいのだろうか、鼻歌を口ずさんでいる。 

 これが現代日本であれば、一紗を隣に従えて彼氏面できる俺は鼻が高かったに違いない。何と言ってもこいつは口が悪い時もあるが超美少女だ。整った顔、体、そしてツーサイドアップの金髪はまるで美の女神がアイドルデビューをプロデュースしてくれたかのような超一級品。

 だが今は異世界そしてここは無人の郊外。当然ながらそういう視線は存在しない。


 雫が抜け、御影君の件もあり、俺たちは簡単に迷宮へと潜ることができない。それでも何かしていないと暇だからという身勝手な気持ちから、こうして警察の真似事みたいなことをしていた。

 

 つぐみ治世下で貧困がなくなった……なんて都合のいい話があるわけではないが、それでも王制時代に比べてだいぶ減ったと思う。かつては貧民であふれていたこの場所も、いまは時たま犯罪者が逃げ込むだけの廃墟と化している。


「誰もいないな」

「平和な証拠よね」


 一紗は魔剣を指で器用に回しながらそんなことを言った。警戒感ゼロ、に見えるがこれで結構いろいろなところ見てるんだよな。


「じゃ、帰るか」

「…………」

「あんまり良くないよな。加藤や御影の件も気になるけど、迷宮も放置しておくわけにはいかないし。いっそのこと、俺たちであの貴族居住区に攻め込むみたいなことはできないのか? 一度、つぐみに話をして……」

「…………」


 不意に、一紗が俺の顔を見た。


「……どした?」


 じっと見つめられると、なんだか恥ずかしい。


「ん」


 一紗が目を瞑り、軽く唇を突き出した。


 ったく、いくら人通りが少ないと言っても、外だぞここ。少しは遠慮しろよな。わがままな奴だ。

 なんて心の中で文句を言いながらも、彼女の柔らかい唇と紅色に染まった顔を見て無視することもできず……俺はキスをした。


「…………」

「…………」


 誰もいない廃墟の近くで、唾液の絡み合う音が聞こえる。


 気持ちいい。

 一紗のキスは情熱的だ。普段気の強い彼女の心を反映してか、俺をそのまま飲み込んでしまうかのような勢いで舌を絡ませてくる。

 いつしか貪るように、激しく情熱的に、俺たちは互いを絡ませ合った。

 俺の吐息と、一紗の吐息が熱い。清涼感のあるミントの味がする。手、そして足先に汗が滲んでいくのを感じた。


 一紗の手が、俺の胸、そして太ももへと這っていく。


「ねえ、あっちの……壁の、間に」


 美少女一紗の甘くとろけるような声に、俺は頭が真っ白になっていくのを感じた。快楽と興奮に身を委ねた俺は、一紗に手を引かれてそのまま壁際の小さなスペースにその身を……。


「た……匠……」


 俺たちは、足を止めた。

 声が、聞こえた。

 その声はひどく懐かしくて、でも最近聞いた声で、そして俺が今もっとも聞いてはならない声。


 思い出の中にしまっていたはずの、もう二度と聞くことができない……そのはずの声だった。


「え……?」


 な……なんで?

 だって、お前……あの時、俺たちの前で、死んだ……はず、なのに……。


「一紗、匠、お前ら……二人、なんで……」


 男が、立っていた。

 まるでドラマや映画に出演する俳優のように、整った顔と背の高さを持つ男、異世界風の剣を腰に下げているが、服は紛れもなく学園で使用していたブレザーの制服だ。

 

 園田優。俺の友人で、一紗の元彼氏で、そして……死んだはずの男。


 あの日、迷宮の最深部で、俺を庇って死んだはずの園田優が……そこに立っていた。

 俺は頭が混乱している。死者の亡霊を見たからだ。何も気の利いたことを言うことはできなかった。

 一紗は顔面蒼白にして震えていた。胸当てを外し、ブラウスのボタンを外し、スカートを緩ませ下着を露出させているその姿は、下手をすれば強姦と間違われてしまうかもしれない状況だ。

 だが、さっきまでの様子を見ていたのなら、そんな誤解はすぐに消し飛んでしまうだろう。


 そして、優が倒れた。


「優」


 いつの間にか、壁の裏から現れた男が、優のそばに駆け寄った。


 俺の友人、時任春樹だ。


 手紙でその存在を知っていたとは言え、その姿を見るのは久々だ。こんな状況でなかったのなら、手を取り合って再会を喜んだかもしれない。


「……は、春樹」


 混乱した俺は、そう名前を呼ぶのが精一杯だった。 


「すまないな匠。まさか、これほど都合の悪い場面に遭遇するとは思わなくてね。俺としても少々計算外だった。許してくれるかね?」

「ゆ……許すって、俺……」

「君は自分の屋敷を持っているんだったね。優は精神的に参って気絶してるだけだと思うから、とりあえずはそこで話をしよう。長部、優を負ぶってもらえるかね?」

「え……ええ」


 はだけた服を整えた一紗が、すぐに優のもとへと駆け寄った。


 よくよく考えれば、男の俺が優を背負っていくべきだったと思う。ただこの時は、そんなことを考えている余裕がなかった。


 死んだはずの親友、園田優。

 そして手紙をくれた時任春樹。

 二人との再会は、俺にとってはあまりに予想外で、タイミングも相まって……何か不幸な出来事が起こる前触れにようにすら感じた。 


 一体、何が起こっているんだ。


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