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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
不幸を呼ぶ四人編

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女王との再会


 道中、優たちは襲ってきた貴族たちを尋問した。

 怯える貴族は、面白いほどにペラペラと喋ってくれた。この様子では嘘をついている心配もないだろう。


 優たちを試験し、不合格であれば殺すこと。

 護衛と称し、優たちが余計な情報を得ないように妨害すること。


 そして、最も遵守すべき命令は――


 二人に、阿澄咲の存在を知られてはならないということ。


「驚いたな、まさかこの国の王妃が阿澄さんだったなんて」


 マルクト王国マルクス、王城の中で優がそう呟いた。

 ここは玉座の間とされる部屋の前。


 むろん、何の役職もない人間がおいそれと入れる場所ではない。春樹が賄賂を渡し、人づてで自分たち二人の名前を彼女に伝えたのだ。

 一応はクラスメイト。名前に憶えがあったらしく、面会を許された。


「俺たちと阿澄さんが会わないように、か。でもあの公爵さん、そうしたかったなら俺たちを外に出すべきじゃなかったんじゃないのか?」

「地方役人の支援が欲しかったという話は真実だろう。従順でないなら殺す用意もあったわけだ。十分だと思うがね」

「それもそうだな」

 

 貴族たちも困っていたのは事実。もっとも、それは自業自得な部分が大半なのだが。


 とにかく、優たちはこの部屋、玉座の間に入らなければならない。

 春樹は扉を開いた。


 そこは、豪華な部屋だった。


 広々としたこの空間は、優たちがいた教室の4~5倍程度。壁際には黄金の鎧が飾られ、正面には国旗と思われる紋章が描かれたカーテンがかけられている。床から前に向かって赤じゅうたんが敷かれており、その先の緩やかな階段の先には玉座と思われるきらびやかな椅子が存在していた。

 

 その玉座の隣に、二人の男女がいた。


 仰向けに倒れこみ、息も絶え絶えといった様子の男。

 玉座に座る、一人の女。


「あらあら?」


 綺麗に巻かれた茶髪を持つ美女が、こちらを向いた。


 マルクト王国王妃、阿澄咲。


 紙よりも薄いシルクのドレスを身に着けた彼女の姿は、下着が浮き出ていて目のやり場に困る。

 すごい服だ。

 優は思わず目をそらしてしまった。普通の常識ある人間だったら、そうせざるを得ない格好だった。


「久しぶりだな、阿澄」


 優と対照的に、春樹はその姿を見ても冷静さを保っている。


 クラスメイト、阿澄咲は汗に濡れた髪を撫でながら、気だるげにこちらを向いた。


「困るわねぇ、取り込み中だったのよ」

「ここは玉座の間だと聞いていたが、国王はどこにいるのかね? 少しマーリン地区の話をしたいのだが……」

「うふふ、失礼よ時任君。陛下を目の前にして……」


 咲はそう言って、床に横たわっている男を見下ろした。


 この男がこの国の王、アウグスティン8世。


 優は、そしておそらくは春樹も理解しただろう。国王と女王、今、政治の話をすべきなのは一体どちらかということを。


「阿澄さん、聞いて欲しい!」


 ともかく、話をする機会ができたのはいいことだ。

 優はこれまでの戸惑いを忘れ、咲に駆け寄った。


「マーリン地区にいる亡命貴族たちがひどいんだ! 女を奴隷のように扱って、あの地域にいる人たちが苦しんでいる! 阿澄さんも女の子ならわかるだろ? 人は自由で平等であるべきなんだ!」

「園田君、どこかの大統領みたいなこと言うのね」


 咲は冷静にそう言うと、国王を放って玉座へと座った。

 腰掛けるその姿はまさに女王。足組をしてこちらを見下ろす姿は様になっている。


「わたくし、こう見えてもこの国の王妃、いえ女王と言ってもいいわよ? そこの種無しと違って、ちゃーんと決断する時に決断するの。貴族たちへの判定は……保留ね」

「なんでだよ!」


 優は信じられなかった。

 伝えるべきことは伝えたはずだ。貴族たちの横暴は常軌を逸している。その上奴らはもともとこの国の人間ではないのだ。ならばしかるべき罰を受けても当然なのではないか? 

 優はそう思っていたのだ。


「貴族の件を報告してくれたことには感謝するわ。でも、クラスメイトだからといってその望みは叶えられないわね……」

「でもさ……」

「よさないか」


 なおも食い下がろうとする優の肩を、春樹が掴んだ。


「亡命貴族は、隣国にとって外交的カードになる。そして非常に扱いが難しい。阿澄が及び腰なのは理解するべきだ優。それが政治というものだ」

「じゃあこのまま引き下がるのか春樹? あいつらを野放しにしたまま」

「……そうは言ってない。それに見合うだけの対価を用意しよう、という話だよ」


 今度は春樹が前に出た。腰のポーチから透明な瓶を取り出し。咲の前に差し出した。

 

「これと引き換えに、俺の頼みを聞いてもらえないか?」

「なにその瓶? 麻薬か何か?」


「ワクチンだ」


 ワクチン。

 これは、春樹が準備したものだ。

 熱、薬品処理で不活性化させたウイルス。あるいは牛痘のように人への症状が軽いもの。こういった諸々を予防接種用に用意した、そんな液体である。


 天然痘、結核、インフルエンザ。この世界と元の世界のウイルスがDNAレベルで全く同じものかは疑わしい。しかし人レベルでいえば、普通に熱を出すし病気にかかる。

 正常に抗原抗体反応が起こっている証左だ。ならばそれに対応するワクチンを生み出すことは、春樹にとってできない話ではない。


「これでいくつかの病気を激減させることができるはずだ。悪い話ではないと思うが……」


 ワクチン。

 その単語を聞いた瞬間、それまで余裕といった様子だった咲が目の色を変えた。


「すごいわね、これ本物? 自分で売ったりとかしなかったのかしら?」

「俺が注射した後に死なれたらどうする? 病気になられでもしたらどうする? この世界はまだまだ未開で、偏見も根強い。俺のせいでなくとも俺のせいにされる可能性は十分にある」


 毒に対する抗血清はまだいい。苦しんでいる人間は、藁にもすがる思いでそれを受け入れるからだ。たとえ不審に思っていたとしても、治ってしまえばあとは感謝されるだけだ。

 だが即効性の血清療法と違い、抗体を用いた予防接種は効果が見えにくい。それゆえに成果をアピールし辛いし、何かの手違いで罪を擦り付けられる危険が存在する。あるいは副作用で本当に発症してしまうこともあるから厄介だ。


 春樹はボランティアでこういったものを用意しているわけではない。大した後ろ盾を持たない若者が大暴れすればどうなるか、優秀な彼は十分に理解している。


「国家の力を使えばこれを普及させることができるのではないかね? 作り方は教えよう。大学から遠心分離機と必要な道具を借りれば作ることはできる」

「うふふっ、時任君、すごいわねぇ。優秀で、度胸があって、わたくし……濡れちゃうわ。どうかしら今晩? 一人きりのベッドは冷たくて寂しいわ」


 恍惚に頬を赤めた咲が、赤い舌を唇に這わせる。


「さ……咲、それはっ!」

「お黙り」


 咲はその足で国王を踏みつけた。それほど強い力を持っていないようには思えるが、国王はただそれだけで黙り込んでしまった。


「結構だよ。俺は清く正しく生きたいからな。将来は政治家を目指しているから、余計な弱点を作りたくない」

「あはぁ」


 咲は破顔した。


「いいわよぉ、女王阿澄咲の名において、あなたの望みを聞きましょう」


 この日、阿澄咲と時任春樹は密約を交わした。


2019/9/6運営からの警告により阿澄咲まわりを改稿。

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